ヒステリックラバー
「うん……うまいよ……」
まだ半分眠そうな正広の一言だけの感想も私は素直に嬉しいと思える。愛しい恋人に喜んでもらえたらそれだけで満足だ。
「あのさ……昨日俺、何か言ってた?」
「え? 何かって?」
「寝言とか……」
昨夜の正広は飲み会の後に酔っ払って帰ってきた。やたらと機嫌がよかったのは覚えている。
「何も言ってはいないけど、私に抱きついてはきたかな」
からかうように笑うと正広は無表情で「そう」とだけ呟いた。
酔った正広はいつも以上に上機嫌で、シャワーを浴びても酔いが覚めないようだった。珍しくベッドに入るなり私を抱き締めたかと思うとすぐに寝てしまった。抱き締められて嬉しいような、先に寝られて寂しいような複雑な感情を持て余しながら私も眠った。
「寝言を言いそうな夢をみたの?」
「いや……そうじゃないんだけど……」
正広は面倒くさそうにコーヒーカップを口に近づける。その先を言おうとしないから私も無理には聞かなかった。正広が寝言を言ったかどうかを気にするなんて珍しい。そんな恥じらいは二人の間になくなったと思っていた。
正広の部屋の合鍵は持っている。泊まることはあっても同棲しているわけじゃない。5年も付き合っていれば身体を繋げることも減っていた。だから昨夜は久しぶりに恋人らしい行為を、と正広の帰りを待っていたのだ。酔っていたとしてもベッドで抱き締められて期待した。だから期待を裏切られて寂しいけれど先に寝られてしまっては仕方がなかった。
「美優、今夜は仕事?」
「うん。これからまた忙しくなりそうかも」