ヒステリックラバー

正広は箱の中から黄色のマカロンを1つ取って口に入れた。
私にあげたものがマカロンだと知らなかったような言い方が気になった。

もしかして、私へのお返しは適当に選んだのかな。中身を忘れてしまうくらいの軽い気持ちで。

「……うまっ」

私はマカロンを味わう正広を複雑な思いで見つめた。

ねぇ正広、それはさっき私を好きだって言った男の人からもらったんだよ。

そう言ったら正広はどんな反応をするだろうかと口を開きかけた。

怒るかな? 焦るかな? 「物好きな男だな」なんて言いながらも嫉妬してくれるかな?

「正広」

「ん?」

正広は視線をテレビに向けながらマカロンを頬張る口で返事をする。

「今日泊まってもいい?」

「……いいよ」

返事をしてくれるまで間があったのが引っ掛かるけれど、正広は今日も私がベッドに入るのを許してくれる。

「ありがとう」

武藤さんのことは言えない。今の順調な関係を乱したくないから。

大事にしよう。私がそばにいることを許してくれるこの恋人を。





正広の部屋の使い慣れたお風呂に入り、見慣れた柄のバスタオルで体と髪を拭く。私が持ち込んだドライヤーを洗面台の引き出しから出して、いつものように髪を乾かした。置きっぱなしの歯ブラシで歯を磨いて、入念に鏡をチェックする。
正広の家に泊まるときの、寝る前の私のいつもの行動を全てこなす。
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