ヒステリックラバー

「田中さんはスタンプラリーの紙を折ってください。戸田さんは田中さんが折った紙を短冊と一緒にしてビニールに入れていってください」

「かしこまりました」

長方形のテーブルに私と田中さんが並んで座り、向かいに武藤さんが座って作業を始めた。
田中さんは綺麗にケアされた長い爪を器用に使い紙の端を丁寧に合わせ折っていく。私はそれを受けとると短冊と一緒にビニールに入れ、糊付けされたテープを剥がして封をした。武藤さんは短冊とビニールの束をテーブルに出し、二人が作ったノベルティを数えながら段ボールに入れていった。

「そういえば美優さん、あれから彼氏とどうなりました?」

突然の田中さんの質問に私はもちろん武藤さんの手の動きも止まった。

「どうって……?」

「同棲の話とかしてみました?」

社員旅行で田中さんにそんなアドバイスをしてもらったのを思い出した。酔っていても意識を飛ばさない人なのだろう。武藤さんとは大違いだ。

「あー……まだしてないんだ」

「そうなんですか。でも順調なんですよね?」

「うーん……まあね。ケンカすることもなく、穏やかかな」

嘘ではないけれど順調でもない。穏やかでケンカなんてしないけれど、恋人らしいことがない。
正広の話をすることはいい気分ではないのが正直なところだ。武藤さんの前で恋人の話をすることも気まずいのだから。
武藤さんの顔を盗み見ると私の視線に気づかないふりをしてノベルティの枚数を数えている。

< 63 / 166 >

この作品をシェア

pagetop