ヒステリックラバー
「逆に美優さんからプロポーズもいいんじゃないですか?」
「え?」
「彼氏さんは美優さんがそばにいることに慣れて安心しきっているんですよ。結婚を意識させることも関係進展ですよ」
「そうかな……考えてみるね」
田中さんに向かって微笑んではみたものの、あまり乗り気ではない。
「ちょっとお手洗いにいってきます」
そう言って田中さんは立ち上がると会議室から出ていった。残された私と武藤さんは一気に緊張し始めた。田中さんがいなくなると話題もなくなり空調の音だけが会議室に響いた。
「戸田さん、僕のことは気にしないでください」
突然武藤さんから口を開いた。
「僕の気持ちを意識しないで普通に話してください」
「普通にしてるつもりなんですけど……」
「今彼氏の話題を早くやめようとしたでしょ」
「それは……」
私は口ごもった。武藤さんの言うとおりだった。武藤さんの前だからというのもあるけれど、正広のことを考えたくない。嫌でも暗い気持ちになってしまうから。
「仕事に支障が出るのはまずいですから、この間のことは気にしないでください。同僚との恋愛話も普通にしてください」
「はい……」
「僕は戸田さんにサポートについてもらえるだけで助かります。だから今後を気まずく思ってほしくないです」
「そうですね。もうこれっきりにしましょう、この話は」
「僕のことはただの仕事上の相棒と思ってください」
「はい……」
仕事上の相棒、その言葉が引っ掛かる。私はそう思えても私に告白してくれた武藤さんは心からそう思ってくれるのだろうか。