ヒステリックラバー
「正広……」
私たちは終わりだ。頭に浮かんだのは最悪の結末。
「怒ってる?」
そう聞いてみたけれど特に怒らせた記憶はない。正広が突然離れていくなんて怒らせたとしか思えないからだ。
「怒ってるわけじゃないよ。俺の問題」
私に背中を向けたまま静かに言った。
「時間がほしい」
「どうして? 何に時間がいるの?」
「俺と美優の今後を考える時間」
血の気が引いた。予感がどんどん現実味を帯びる。
「別れるってこと?」
「それを考えさせてほしい」
「やっぱり怒ってるの?」
「だから、怒ってないよ」
徐々に興奮していく私と比べて正広は始終冷静だ。それが怖かった。今後を考えると言ったけれど、正広の中ではもう答えを決めているような気がして。
「頼むから時間をちょうだい。今は美優の気持ちに応えられない」
目が潤みそうになるのを堪える。私の気持ちとは正広とのスキンシップのことだと理解した。
「俺も配慮が足りなくてごめん」
「もうしつこくしないから! 今話し合って!」
「また連絡する」
「嫌だよ……待って……」
「ごめん。帰るよ」
正広はドアノブに手をかけた。
「待って!」
呼び止める私の声を無視して正広は出ていってしまった。ドアが閉まっても私は玄関に立ち尽くしたまま動けなかった。
賭けだった。新しい下着にあからさまな誘い方。引かれるのを覚悟で正広との関係を再確認したかった。けれどその賭けは二人の関係が望まない方向に進んでしまったのだ。
なんて惨めなのだろう。正広と体が触れただけではしゃいで、新しい下着を嬉々として身に着ける自分が。
私にはもう正広を繋ぎとめるだけの魅力がないと言われたようなものだ。