ヒステリックラバー
「集中できていなくてすみません……」
「無理しないでくださいね」
「はい……」
武藤さんは優しく笑うとイスを引いて立ち上がった。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
フロアから出て行く武藤さんを見送って溜め息をついた。
武藤さんにまで気を遣われてしまうくらいに今の私はボロボロだ。「無理しないでくださいね」と言った彼の言葉が頭の中で繰り返される。
無理をしているわけじゃない。特別私が何かをしたわけでもない。正広と微妙な別れをしてから連絡がない。数日たって電話をしてみても出てくれることはなかった。
今後の2人のことを考えたいと一方的に言われたまま私はただ結論を待つしかできない。正広の中ではこのまま私との関係を終わらせる選択をすることも十分有り得るということだ。
どうしてこうなってしまったのだろう。何度も何度も考えたけれど、やはり正広を傷つけるようなことをした記憶はない。こんなにも正広は私の心を掻き乱すのに。
「はぁ……」
再び溜め息をついたその時、フロアの扉が勢いよく開いて武藤さんが戻ってきた。
「あれ? 忘れ物ですか?」
返事をすることなく無言で近づいてきた武藤さんは私の目の前に立った。
「どうしたんで……」
言葉を最後まで言い終わらないうちに私の体は前屈みになった武藤さんに抱き締められた。
「え? ちょっと!」