ヒステリックラバー
座った私の肩を包む両腕は締め付けることなく優しいけれど、抵抗しても解放してくれることはない。武藤さんの肩に私の顔はすっぽり隠れる。
「武藤さん!?」
「やっぱり無理してます」
耳元で聞こえる武藤さんの切ない声が、抵抗してもがく私の動きを止めた。
「放してください!」
私は怒鳴った。社員旅行の恐怖が思い出される。
「戸田さん、無理しています」
「無理なんて……」
していないとは言い切れなかった。私を優しく包む武藤さんになぜだか強がれない。この人が今何を思っているのか嫌でも伝わって、焦って武藤さんの胸を押した。
「やめてください!」
自然と大きな声が出てしまう。強引にキスされたことを忘れたわけじゃないのだ。それでも武藤さんは私を放そうとはしない。
「あなたが辛いと僕も辛い」
「そんなことを言われても困ります……」
武藤さんの気持ちが今は重荷でしかない。
「ほんとに……放して……」
涙が出そうだ。正広との関係が辛い今、私を好きだと言うこんな素敵な男性に抱き締められたら甘えそうになってしまう。
「今は困ってもらっていいです」
武藤さんのこの言葉に心が揺れた。それでもこの人にこのまま抱き締められ続けていたら私は自分を許せない。
「また強引にキスをするつもりですか?」
強めの言葉で武藤さんを責めた。
「あの……」
「それとも、また酔ってますか?」