ヒステリックラバー

ああもう、パソコンをシャットダウンし損ねた。Excelも途中で保存したか忘れてしまった。何もかも武藤さんのせいで中断された。

私を気にかけてくれる武藤さんが怖かった。どういうつもりで抱き締めてきたのかは知らないけれど、あんな風に触れてくるなんていい加減にしてほしい。酔っていてもいなくても私の心を乱してくる武藤さんと離れたい。

社員旅行で強引にキスされたあとは正広に会いたくて仕方がなかった。けれど今は会いたいとも思わないし、正広が会ってくれることもない。どうしようもなく悲しくて経験したことのない孤独感で満たされた。



◇◇◇◇◇



正広からの連絡を待ち続けて1週間がたった。今まで連絡を取らないことが普通だったけれど、今回は何倍も長く感じた。
この1週間で私の生活は変わった。スマートフォンを常に持ち歩くようになったし、夜も眠れず仕事にも身が入らなくなってしまった。お風呂上がりに髪も乾かさずぼーっとしていたことも度々あった。こんなことは初めてだ。正広にこうまで心を乱されている自分を初めて知った。
共に過ごした長い時間をこんな形で止めてしまうことが悲しい。私の人生に正広は欠けてはいけない存在だった。

「戸田さん……戸田さん!」

「はい!」

名を呼ばれて我に返ると横にいる武藤さんが心配そうに私の顔を見ている。

「大丈夫ですか?」

「ああ、はい……」

武藤さんにこうして意識を呼び戻されて大丈夫かと問われることはもう何度目だろう。

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