ヒステリックラバー
「顔が赤いですけど本当に大丈夫ですか?」
「そうですか? 大丈夫です……」
そうは言っても顔以外にも体中が熱を持っている気がする。正広のことは関係なく頭が重たくて眠気があることは数時間前から感じていた。
武藤さんは私の答えに納得できないという顔をしていたけれど、それ以上何も言わずに私から視線を逸らしてパソコンを向いた。
武藤さんに抱き締められてからというもの、仕事以外でちゃんと会話もできないでいる。プライベートな悩みを仕事に出しているのは反省しているけれど、武藤さんの公私混同ぶりには呆れてしまうのだ。このまま距離をおいていきたいと思っている。
「はぁ……」
私は小さく溜め息をついた。今日は特に体調が悪く自然と呼吸が荒く深くなる。
「武藤さーん、1番にお電話でーす!」
二つ後ろのデスクから武藤さんを呼ぶ声がした。
「ありがとうございます」
武藤さんはそれに返事をすると受話器をとった。
「お電話代わりました武藤です……はい……ええ……え?」
武藤さんの声音が低くなった。
「申し訳ございません……至急お送りします。はい……失礼致します」
受話器を置くと武藤さんは私に顔を向けた。
「戸田さん、工事の日程表と区画案内図を会場元にメールしましたか?」
そう言われて思い出そうとキーボードを打つ手を止めた。