ヒステリックラバー
「えーっと……確か一昨日送りました」
「それがいつまでたっても送られてこないと今お電話がありました」
「え? そんなはずは……」
私は慌てて送信ボックスを確認した。先週末日程表の作成がギリギリになってしまい催促されていたものを一昨日送ったはずだった。
「えっと……」
いくら探しても送信ボックスには私の送ったメールの履歴はなかった。
「戸田さん?」
「すみません……私のミスです。送っていませんでした……すみません」
私は武藤さんに体を向けて謝った。
「ふぅ……」
今度は武藤さんが溜め息をついた。
「戸田さん、集中していただかないと困ります」
珍しく低い声で叱責する武藤さんの姿に周りの社員の視線が私たちに集まりだした。整った顔を歪ませるとこんなにも迫力があるのだと知った。普段温厚な武藤さんを怒らせると体調が悪い私には何倍も怖く見える。
「今日はもう早退されてはいかがですか?」
「え?」
「体調が悪いのでしたらお帰りください」
武藤さんは冷たい声をぶつけ、蔑むような目で私を見た。それは以前避けられていたとき以上に堪えた。私にいられては邪魔だ、と言いたいのかもしれない。
「いいえ、大丈夫です!」
思わず大きな声で言い返した。帰れと言われて素直に帰れるわけがない。私のプライドが許さない。
「でしたら一つ一つに集中してください。日程表も遅くなった原因を思い出してください」