ヒステリックラバー

「今大丈夫?」

「うん……」

プライベートな電話だけどここが会社だろうと気にしない。だって今はもうフロアに私しかいないのだから。

「ごめん、しばらく連絡しなくて」

「うん……」

「あのな」

「……っ」

思わず目をつむった。正広の言葉の続きは聞けない。聞きたくない。連絡を待ち続けたのに、できればこのまま何も言わず電話を切ってほしいとさえ願った。

「実は俺、他に好きな人ができた」

思いがけない告白だった。

「え? えっ?」

間抜けな声で聞き返した。

「他に、好きな人ができた」

正広は残酷な言葉をもう一度繰り返した。

「だって……え?」

頭が混乱する。疑問が次々と湧いては言葉にならずに消えていく。

「だからもう美優とは付き合っていけない」

「何言って……だって……」

正広に好きな人ができたって、私以上にその人を好きだってこと?

「いつから?」

「出会ったのは何年も前から。でも好きかもしれないって思ったのはこの1年くらい」

ついに涙が溢れた。
理解させられた。どうして正広が私に触れないのか。避けられているとさえ感じていた。一緒にいる意味が分からなくなりかけていた。あからさまに誘っても正広は私を抱こうとしなかった。

「なんでっ……」

好きかもしれないと思い始めたのが1年前なら……。

「じゃあどうして!? だってあのときは私を抱こうとしたじゃない!」

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