ヒステリックラバー
酔った勢いとはいえ正広に押し倒された。他に好きな人ができたというなら、なぜあの時あんなにも激しく求めてきたのだ。
「確かめたかったんだ。自分の気持ちを」
嗚咽を堪えながら泣く私とは反対に、正広の声はどこまでも冷静だ。
「美優の存在の大きさを量った。これからも俺は裏切らないで美優を愛していけるのかって。でも……あの時……」
「うっ……」
無理に私を抱こうとしても正広の体は私に反応しなかった。それが事実だ。
「俺、もう美優を……」
「それ以上は言わないで!」
正広の言葉を遮った。聞きたくなかった。
酔った勢いて抱こうとしても、もう私に欲情しない。そうはっきり言われてしまったら女として惨めじゃないか。
私の鼻をすする音と嗚咽以外の音が聞こえない。このまま泣き続けて悲劇のヒロインぶれば正広の気持ちは戻ってくるかもしれない。けれど正広は「ごめん」と言って沈黙を破った。
「俺の態度に美優を悩ませているのも分かってた。でも俺は中途半端な気持ちで美優に会えないと思ったから……」
「いい……もう言わないで……」
「好きな人が夢にまで出てくるんだ。俺の意識の中にいるのはもう美優じゃない。寝言でその人の名前を言っていないか心配なほど」
信じられないほど残酷な言葉に声が出ない。
私のそばにいながらも正広は違う女のことを想っていた。私だけが幸せだと思い込んでいた。
「美優、ごめん。別れほしい」
「っ……うっ……」
突きつけられた現実に怒りや悲しみ、正広を罵る言葉が頭をめぐるけれど、口から溢れるのは嗚咽する声だけだ。