ヒステリックラバー
「…………」
無言は肯定だ。
ほらね、いくら恨んでも罵っても、泣いて懇願しても正広の気持ちは変わらない。
「落ち着いたらまた話そう」
その言葉を聞いた瞬間、私は自分から通話を切った。これ以上正広と話をしたくなかった。後日落ち着いたところでまた別れ話をする自分を想像できない。その気力すら湧くとは思えない。
二人の5年間の終わりを電話で告げられた。私の存在はもう正広にとってその程度なのだ。
気持ちを繋ぎとめる努力をもっとすればよかったのだろうか。正広の気持ちが離れる前より早く私からプロポーズしていれば今頃家族だって増えていたかもしれない。
「うっ……ひっく……うえっ……」
誰もいないフロアで声を抑えないで泣き喚いた。
正広を批難する言葉は次々頭に浮かぶのに、一頻り泣くと涙は徐々に出なくなる。頭はズキズキするし喉も痛い。
重い瞼を強引に動かして時計を見ると終電の時間が迫っていた。焦る気持ちに反して体は重くてゆっくりとしか動かない。カバンに荷物をつめて肩にかけ立ち上がり、フロアの電気を消すために壁まで行くとフロアの曇りガラスのドアの向こうに誰かが立っていた。
一瞬驚いたけれど警備員さんだったら待たせるのは申し訳ないと思ってドアを開けた。