ヒステリックラバー
「ふっ……あ……」
うまく息ができない。社員旅行で酔ったとき以上の強引なキスに私は抵抗するのをやめた。体のどの部分にももう力が入らない。肩にかけたカバンを床に落としてしまったけれど、もうそんなことはお互いに気にしていられなかった。足の力が抜けて倒れそうになる私の腰を武藤さんの腕が支えた。
「戸田さんはバカではありません。自分を卑下しないでください……」
ほんの少し唇を離して言った。
「こんなに傷つくほどに相手の人が好きだったんですよね」
囁かれた言葉はじんわりと胸に染みた。
そうだ、私は正広を大切に思っていたのだ。
武藤さんの腕の中で私はこくりとうなずいた。
「戸田さんに大事にされていたのに、バカなのは彼の方ですね」
「いい気味だと思いましたよね」
「何がですか?」
武藤さんは私を抱いたまま顔を覗きこんだ。
「彼氏にふられて、武藤さんからしたらざまあみろって感じですよね」
今私が傷ついているのが愉快に違いない。武藤さんを無下にしてきた私への罰だと。
「チャンスだと思ってます」
それはどういう意味だと顔を上げた。私の顔を優しく見下ろす武藤さんと目が合った。
「戸田さんが僕を好きになってくれる可能性が出てきました」
あっけらかんと言う武藤さんに目を見開いた。
「あの……」