ヒステリックラバー
「僕はもう我慢しません。いつだって戸田さんに気持ちを正直にぶつけますし、あなたのために力の限りを尽くします」
「………」
驚いて返す言葉が出ない。正広に別れたいと言われたばかりの私には状況が整理できない。
「辛いときには遠慮なく抱き締めてあげることができる」
「どうしてそこまで……こんな私を?」
「あなたが好きで仕方がないからです」
何度も好意をぶつけてくれる武藤さんに私はなんと言ったらいいのだ。この人の腕に包まれていなかったとしても私はもう逃げることはできない。体だけでなく言葉でも武藤さんに捕まってしまった。
「別れたばかりの今だからこそ呪いのように気持ちを植えつけます。僕はあなたが欲しくてたまらない」
間近で真剣な目を向けられて逃げる気も起きない。
正広に欲情してもらえない私を欲しいと言ってくれて涙が溢れる。
「武藤さんを好きになることはないかもしれません……」
「好かれたからって僕を好きにはなってくれませんか?」
「わ……かりません……」
私の答えに武藤さんは満足そうな顔をした。圧倒的な目力に「好きにはならない」と言いきることができなかったのだ。
武藤さんの顔が再び近づいてきた。これはまたキスをされるのだと気づいたら、顔を背けるべきなのか武藤さんの気持ちを受け入れるべきなのか迷った。私の中途半端な様子に武藤さんは耳元で微笑んだ。吐息が耳にかかりくすぐったい。