ヒステリックラバー
「あれ? おはようございます」
私を見て武藤さんも目を見開いた。
「戸田さんどうしてここに?」
「武藤さんこそ……」
この後古明橋で会う約束をしているというのに、今二人して会社にいるのだ。
「行く前に少し仕事をしようと思って」
「私もです」
では同じ事を考えていたのだと二人で笑った。
「じゃあもう少ししたら出ましょうか」
「はい」
私もデスクにカバンを置くとパソコンの電源を入れた。
揃って会社を出たのは結局初めに待ち合わせをした時間を過ぎていた。
「実は今日は車で来ているんです」
そう言うと武藤さんはビルの横の路地を進んでいった。普段の武藤さんは電車通勤だ。車を運転するイメージはなかった。
しばらく歩いて着いたコインパーキングには一台の車が停められていた。
「武藤さんの車ですか?」
「そうです。兄から貰ったものなのでだいぶ古いですが」
「お兄さんいらっしゃるんですか?」
「はい。年が離れていますけど」
意外だった。勝手に武藤さんは長男だと思っていた。
「武藤さん長男っぽいのに、意外です」
「兄とはかなり離れているので一人っ子みたいなものです。優秀な兄なので僕のコンプレックスですよ」
「そんなことないです。武藤さんも優秀です!」
本心からそう言うと武藤さんは笑う。