ヒステリックラバー

「はい、そうしますか……」

武藤さんは微笑んだ。自然と武藤さんとお昼を共にする流れになって悔しい。私が武藤さんの思い通りに動かされている。

「あそこのカフェはイベント当日に噴水広場の横にもテーブルを出すそうですよ」

武藤さんと向かったのは公園内にあるカフェだ。ホットサンドを注文して会計をしようとすると「僕が」と武藤さんが財布を出した。

「自分で払いますから」

「今日は僕が誘ったんですから僕に出させてください」

「でも……」

武藤さんは店員に自分の分と私の分のお金を渡した。

「すみません、ありがとうございます……」

申し訳なさでいっぱいの私に武藤さんは微笑む。この人に甘えることはしたくないのに今日の武藤さんはいつも以上に私のペースを崩してくる。緊張でホットサンドを味わう余裕のない私とは反対に武藤さんは私の顔を見つめ機嫌良さそうに笑う。

「一応視察は終わったので今日の仕事は終了ですけど、この後どうしますか? どこかに行きますか?」

「いいえ、帰ります」

即答する私に武藤さんは「そうですか」とまた笑った。
笑い事ではない。これ以上この人と一緒にいたら本当にデートになってしまう。まだ自分の気持ちを整理できていないのだから中途半端な態度でいてはいけない。





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