ヒステリックラバー
カフェを出て車まで歩いていると後ろからタタタッと何かが駆ける音が聞こえて振り返った。突然目の前に飛び込んできた毛の塊に驚く暇もなく太ももに衝撃を受けてよろけた。混乱しながら下を見ると大きな犬が私の太ももに前足をかけている。
「え!? 犬!?」
驚く私にその大きな犬は尻尾を左右に大きく振り、「遊んで」と言わんばかりに私から離れようとしない。よくペットとして見かける犬種のゴールデンレトリーバーだ。
「すみません!」
一人の女性が私たちのところに走ってくる。
「うちの子がすみません!」
女性は私の前で止まるとゴールデンレトリーバーを私から引き離した。
「本当にすみません!」
「いいえ、大丈夫です」
ゴールデンレトリーバーは私から離れても尻尾を振り続けている。力が強い大型犬は引っ張る飼い主も大変そうだ。女性は何度も私に謝った。
「車に載せようとしたらうっかり逃げてしまって……ごめんなさいね」
「本当に大丈夫ですよ」
クリーム色の毛を見て実家で飼っていたポメラニアンを思い出した。
「触ってもいいですか?」
私が聞くと飼い主の女性は笑顔で「いいですよ」と言ってくれた。ゆっくりと手をゴールデンレトリーバーの顎に近づけ撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
女性にお礼を言ってゴールデンレトリーバーが車に乗るのを見届けて武藤さんを見ると、突っ立ったまま顔を強張らせている。