ヒステリックラバー
「武藤さん?」
そう言えば先程からずっと黙ったままだった。
「どうかしました?」
「いや……」
武藤さんは恥ずかしそうに私から顔を逸らした。
「もしかして、犬が嫌いなんですか?」
「………」
私の質問に少しだけ不機嫌そうな顔になったのを見逃さなかった。
「意外ですね……あんなに可愛いのに」
「誰にだって苦手なものくらいあるんですよ」
拗ねた子供のように言う武藤さんがおかしい。そういえば美術の授業も苦手だと言っていた。新しい武藤さんの一面を見れて嬉しいなんて思ってしまう。
「そうだ! ここってドッグランがあるんですよね。見に行っていいですか?」
「え、いや……それは……」
武藤さんは明らかに嫌な顔をした。
「見るだけですから。柵か何かに囲われているんですから近づいてきませんよ。なんなら武藤さんは待っててください。私だけで見てきますから」
「行きますよ……」
私は不満そうに眉の下がった武藤さんの前を機嫌よく歩いた。乗り気じゃない武藤さんが静かについてくるのがおかしかった。
駐車場の奥にあるドッグランはフェンスに囲われ、休日だからか中にはたくさんの犬と飼い主がいた。
「わあ、可愛い!」
大小様々な犬にうっとりする私に武藤さんは引いている。