ヒステリックラバー

「武藤さん?」

そう言えば先程からずっと黙ったままだった。

「どうかしました?」

「いや……」

武藤さんは恥ずかしそうに私から顔を逸らした。

「もしかして、犬が嫌いなんですか?」

「………」

私の質問に少しだけ不機嫌そうな顔になったのを見逃さなかった。

「意外ですね……あんなに可愛いのに」

「誰にだって苦手なものくらいあるんですよ」

拗ねた子供のように言う武藤さんがおかしい。そういえば美術の授業も苦手だと言っていた。新しい武藤さんの一面を見れて嬉しいなんて思ってしまう。

「そうだ! ここってドッグランがあるんですよね。見に行っていいですか?」

「え、いや……それは……」

武藤さんは明らかに嫌な顔をした。

「見るだけですから。柵か何かに囲われているんですから近づいてきませんよ。なんなら武藤さんは待っててください。私だけで見てきますから」

「行きますよ……」

私は不満そうに眉の下がった武藤さんの前を機嫌よく歩いた。乗り気じゃない武藤さんが静かについてくるのがおかしかった。

駐車場の奥にあるドッグランはフェンスに囲われ、休日だからか中にはたくさんの犬と飼い主がいた。

「わあ、可愛い!」

大小様々な犬にうっとりする私に武藤さんは引いている。

< 96 / 166 >

この作品をシェア

pagetop