ヒステリックラバー
別に武藤さんが犬嫌いを克服する必要なんてないのに。
車に向かって歩く武藤さんに先程の言葉の意味を聞こうとした。
「あの……」
武藤さんは軽く振り返ると私の手をとった。
「え……」
武藤さんの右手が私の左手を握るとそのまま歩き出した。
「あの、武藤さん!」
名を呼んでも武藤さんは私を無視して歩き続ける。左手を振り払おうとしても武藤さんの右手には力がこもって私の手を解放しようとはしなかった。
今私たちは人からどう見えるのだろう。手を繋いでいると恋人同士に見えるかもしれない。
「優柔不断ですみません……」
小さく呟いた声が聞こえたのか武藤さんは立ち止まって私を見た。
「元カレが吹っ切れないのに、今武藤さんと手を繋ぐのが嫌じゃないです……」
優しさが嬉しい。触れられるのが心地良い。
「本当にすみません……私最低で……」
今私は武藤さんに甘えている。ずるい私だから正広は離れた。
下を向いて武藤さんの顔を見るのを避ける。すると私に体を近づけた武藤さんの手が私の頬に添えられて上を向かされる。
「自分を卑下しないでって言ったでしょう」
武藤さんは優しく微笑み「あなたは素敵な人です」と言葉をかけた。私を見つめるその瞳に吸い込まれそうだ。