聖夜の奇跡
4階の師長さんは、普段の勤務では全く関わらないが、何度か見かけたことがある。
胃カメラを受けた病棟の患者さんを、病棟まで送ることもあるからだ。
若い、ということはない。
多分40くらいの、でも綺麗な人だった。
――― 愛人って、若い人を次々選ぶってもんでもないんだ。
この人に限らず、今名前が上がった人たち、特に総看副看の二人はもう定年間近なはずだった。
何年も前から付き合って、ずっと続いてる。
なぜ、その一途さが、奥さんには発揮されなかったんだ?
愛人でありながら、一途。
矛盾だらけだ。
昼食を終えて、午前の胃カメラ検査の後片付けをして午後の検査の準備をする。
私は、看護婦免許はもっておらず助手扱いだが、内視鏡室にはハタチの頃から勤めてもう5年だ。
だから、内視鏡室の検査進行や準備、後片付けまで私が中心になってやっていた。
「筧さん」
内視鏡を洗浄機にセッティングする作業でずっと俯いていたので、人が入って来た気配に名前を呼ばれるまで気付かなかった。
「びっくりした、谷センセ」
噂の、谷先生。
こうしてみると、特にかっこいいわけでもない。
普通のオジさん。
白衣は…似合うけど。