ひめごと

ぼふん、と音がして、程なくしてクッションが落ちる。
咲子の顔が見えた。瞑っていた目を開くと、咲子はふわりと笑ってクッションを胸元に抱え込む。



「今までありがとう、苑ちゃん」

「やめてよ、辛気臭いのヤだからね!」



だからこうして、咲子の好きなフルーツサラダを作って、カクテルでお祝いしてるのだ。
親友を笑って送り出すために。


それなのに。



「人見知りの私が、上京してお仕事やってこれたのも、全部苑ちゃんがいてくれたおかげだから」



そんな、泣かせるようなことを言うから。
じわり、涙の気配が目頭に滲む。


零れてしまう前に。
そう思うと、やや衝動的にクッションと一緒に咲子の身体を抱きしめる。


その脇に手を差し入れた。



「人を泣かせるような奴はこうしてやる!」

「やっ、ちょっ! あははは!! やめてぇ!!」



思いっきり擽りあって、何の涙かなんてわからなくなればいい。
最後まで楽しい想い出で部屋をいっぱいにして。


明日笑って、彼女を祝福するんだ。


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