桜の下できみを待つ
まさか、こんな大雨に花見なんてしないよね?
あちらも私に気がついたようで、こちら側に体を向けた。
「……え」
息が、止まるかと思った。
こんなにも、綺麗な人が、この世にいるのかと。
色素の薄いふわふわとした髪の毛に同じ色の大きな瞳。
白いワイシャツを着ていて、それが雨に濡れているから、細身なのがすごく分かる。
その人はしばらく私をぼーと見ていたけれど、
我に返ったのか、こちらへ近づいてきた。
「こんにちは。雨凄いよね。」
「…あ、ども…」
人って気が動転したら頭が働かないって本当だ。
こんな綺麗な人が私とこんな近くで喋っている。
それだけで私は気を失いそうだった。
「高校生?だよね。君の名前は?」
「中原、音桜…高2…」
「ネオちゃん、うん。いい名前。君にピッタリだね。」
こんな見ず知らずの人に名前なんて、教えなくても良かったんだろうけど。
君がこんな雨の中、とっても綺麗に微笑むから。
無性に泣きたくなって。
「え、ネオちゃんどうしたの。大丈夫?お腹痛い?」
気づいたら、私の目からは大粒の涙が溢れていた。
「…なんでも、ない。」
「そうかそうか。よしよし。」
「なんでもないって」
この男は空気が読めないのか、それともわざとなのか。
結局私が泣き止むまでこの男は私のそばにいてくれた。