泥酔ドクター拾いました。
「あっ、いや、その……」


どうしよう。次の言葉が見つからない。謝ったら認めたことになってしまうし。

目の前の斎藤さんをじっと見つめることしか出来ずにいる。


トン、トン。

病室のドアをノックする音が聞こえた。控えめなノックだったというのに、重たい空気の静かな病室には驚くほどよく響く。

「失礼します」

ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、大和田先生。

「病室の前を通ったら、斎藤さんの声が聞こえてきたので、担当医としてちょっと顔を見にきました」

眼鏡の奥の目を細めて、優しく穏やかに微笑む。
誰にだって安心感を与える笑顔を見せられて、一番安心したのは実は目の前の斎藤さんではなくて私なのかもしれない。

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