泥酔ドクター拾いました。
ネクタイを脱ぎ捨てて、ソファーに身体を沈める。

「藤代奈緒かぁ」

赴任してからというもの、201号室の藤代奈緒のことばかり頭に浮かんできてしまう。


そんな時、胸ポケットに入れていたスマホが着信を知らせた。

「もしもし」

『もしもし、崇也?』

相手は2ヶ月ほど前まで付き合っていた、ほのかだった。

『崇也、あのね、私いまさら遅いかもしれないけど、やっぱり…』

「もう、戻る気なんてないから」

大学の教授の一人娘だったほのか。

教授の紹介で知り合ったのは、もう3年ほど前のこと。
大学の頃には留学の経験もあって、自由奔放でおおらかな性格に惹かれた。

ほのかの次の誕生日にはプロポーズをするつもりでいたというのに。

あぁ、そういえば、ほのかの父親――教授だってあの頃は何も知らずに、俺とほのかの結婚を急かしていたんだったな。

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