泥酔ドクター拾いました。
「正直、同じマンションの住人と同じ職場で働くことになるなんて思わなかった」

「私だって同じです」

振り向けないままで、私はやっぱり背中越しに強がって答えると、小さく息を吐く大和田先生の呼吸音が聞こえてくる。

「って、えっ⁉気が付いていたんですか?同じマンションだってこと」
「そりゃあ、すぐに分かったよ」

一瞬、冷静になって気づいた私が驚いて振り向くと、当たり前だというようなクールな反応を大和田先生は見せる。


「しかも、泥酔したところを見せてしまった相手と働くなんて思ってなかったから」

泥酔。大和田先生の言葉で急に大和田先生とのキスの感触を思い出してしまって、私は人差し指で思わず自分の唇に触れた。

向かい合ってしまった私は、急に恥ずかしくなってもう一度大和田先生に背中を向ける。すると先生は、ゆっくりと口を開いた。


「ずっと、謝りたかったんだ。あの日のこと。このまま気まずいままに一緒に仕事したくないし、マンションでばったり会うのも嫌だからさ。…って、俺あの日の記憶全くないんだけどさ」

嘲笑ともとれる空気の漏れ出たような大和田先生の笑いが二人の間をすり抜けていく。

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