キミの螺旋
熱いお湯を浴槽にためて二人でつかった。

二人共、電気をつける事はできなかった。

暗闇の中、浮かぶ月の明かりが浴室を照らす。

それだけで十分だった。

もう太陽の下なんか歩けないね…

少しだけ照らされた藤紀の身体や手がアザだらけなのに気づく。

あたしも…あちこちキズができていた。

「手当しようか…?」

「ううん、大丈夫だ」

「そっか…」

あまり言葉は交せなかった。
たくさん話したい事はあるのに

…ただ

躊躇いがちに

──あたし達はキスをした。



逢う度に好きになって
逢う度に恋をする


藤紀と付き合えて、サラとも楽しく過ごして、ちょっと遠慮がちに三人で住んでいた頃

あの頃が
あたしの人生の中で一番幸せだったと思う。

ねぇ、藤紀

多分、藤紀も同じように感じてたよね?

お互い何にも知らないで、愛し合って未来を語ったりしてた。


このキスは、あの時とは違うけれど

でも好きな人とのキスって感じがするね…

キスが出来る事。それが幸せに感じられた。

あたし達はお風呂から出て、棚にあったバスタオルを見つけ、身体に巻いた。

それから───

「凛、あったよ。先生が医者でよかった」
< 390 / 398 >

この作品をシェア

pagetop