魔法使いの巫女少女Ⅰ
いくら待っても痛みがなく、未来は薄っすらと眼を明けた。
槍は未来の心臓を貫いていなかった。
何度見てもなかったのだ。
不思議に思い、状態を起こして周りを見る。
てっきり、もう貫かれて床にあり、傷も修復したと思っていた。
いや、本当はそう思いたかっただけなのかもしれない。
床を見てもなく、何気なしに陛下とアーサーがいた場所を見た。
二人のいた場所には、何もなかった。槍も、人も、その痕跡さえ……。
いやな予感がした。誰かが助けてくれた?今までそんなこと、なかったのに?
いや、それよりも皆どこー!?
地下室の階段を駆け上がり、辺りを見回す。
いないー。誰もいない。
いつもなら、誰かがいるはずなのに誰もいなかった。
(なんで?なんで?誰もいないのはどうして?)
そう思いながら、部屋に行き、窓を開け、テラスに出た。
おかしい………。
この時間なら、まだ月明かりを頼りに帰る人がいるはずなのに……。
誰もいなかった。
いや、何もなかった。
街も、人も、明かりも、建物も……。
ふらふらと自分の部屋に戻り、ベッドに倒れた。
(何の冗談なの・・・?)
未来は、自分ひとりだけになった世界で泣いていた。
普段の彼女からは、考えられないことだった。
人に涙を見せるな、泣く姿を見られるな、涙を流すな。
そう、言われ続けてきた彼女は滅多に泣く事はなかった。
その彼女が泣いている。
それだけに考えられないことだったのだろう。
一人静かに泣いて、そのまま眠りについた。
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