笑って、なんて。
自分から聞いておいて無愛想な返答をしてしまった。


失礼だと自分でも感じた。



「昔からここでずっと何かあると絵を描いていたんだ」



「絵を?じゃあ今も?」



「うん。そうだよ」



少年の手にあるスケッチブックを覗き込んで見た。



「すごい!すごい上手」



少女はあまりの上手さに驚いた。


そこに描かれていたものは、ここから見える美しい夕日と街だった。


プロなんじゃないかと思うくらい細かい線まで綿密だった。



「そんなに大した物じゃないよ。きみの歌声の方がすごいよ」



「ううん。本当に上手。細かい線も丁寧に描かれていて、まるで線が生きているみたい!」



われながらびっくりするコメントだ。



「はは、きみ面白いね」



今度は無邪気に笑った。


その笑顔に少しムカッときた。


だけどもう一度見たいと思った。



「…歌爽 千歳(ウタザワ チトセ)」



「え?」



小さな声で自分の名前を言う。



「きみじゃなくて歌爽 千歳!私の名前です」



「いい名前だね。よろしく、千歳ちゃん」



嬉しそうな顔で私の名前を呼ぶ。



「よろしくお願いします。えっと…」



「千白描 爽晴」



「あ、よろしくです。千白描さん」 
< 10 / 30 >

この作品をシェア

pagetop