ぷりけつヒーロー 尻は地球を救う 第1話
「ここがワシの研究所じゃ」
階段を抜けた先には17畳ほどの広さのスペースが広がり、床と壁は一面、白い金属のようなもので覆われている。左右の壁に1枚ずつ扉があり、正面には無数のモニターと見たこともないような機械が並んでいる。中央にある壁や床と同じ材質で作られたであろう長方形型のテーブルの上には書類や地図が無数に散乱している。
「すまんが、ちょっと手を止めて集まってくれんか」
正面の機械の前に座って作業をしていた男性2人と女性1人が手を止め、こちらへと近づいてくる。
「所長。誰ですか?このいかにも頭の悪そうなクソガキは。ガキとチビはこいつだけで十分ですよ」
眼鏡をかけた背の高い男性だ。身長は裕に180cmはありそうだ。目鼻立ちの整ったイケメンだ。左横にいるもう1人の男性を横目で見ながら眼鏡をクイッと上げる。
「チビっていうな!!それに俺はガキじゃねぇ!ちゃんと成人してんだ!このガリクソ眼鏡ノッポが!!」
眼鏡の男性とは打って変わり、背の小さい男性。身長は150cmもない。童顔で正直成人を迎えているようにはとても見えない。背の高い男性に怒りをぶつけている。背の高い男性はまるで相手にしていない。
「二人とも所長の話をちゃんと聞きなさい!!まったく……いつも懲りないんだから」
紅一点。背の小さい、ツインテールの可愛らしい女性。二人の不毛なやりとりに呆れ顔だ。
「いいかの?ワシ、喋って」
晋助が3人に割って入る。右横にいる凜太郎は周りをキョロキョロして、落ち着かない様子だ。
「すみません所長!この馬鹿2人が邪魔をして」
「このチビはともかく、私まで馬鹿とは聞き捨てならんな」
「あぁん!?俺が馬鹿だって言いてぇのか!!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「んだとテメェ!!もういっぺん言ってみろ!!」
「いい加減にしなさい!!あんた達!!」
「……いいかの?」
「す、すみません。どうぞ」
咳払いをした後、話を再開する晋助。
「今日は皆に紹介したい奴がおるんじゃ。ほれ、挨拶せい」
晋助に促され、凜太郎が口を開く。緊張の色を隠せない。
「し、品川 凜太郎といいます」
3人に向かって深々とお辞儀をする凜太郎。
「お前らも挨拶せんか」
「私は辻 照子。横にいる眼鏡が目黒 万次郎。その向こうにいるチビが千葉 敏也よ。よろしくね」
「お前までチビって言うな!まぁ、その……よろしくな」
「フン。邪魔だけはするなよ。クソガキ」
「もう!もっと優しく接してあげられないの?万次郎」
「できんな。俺はチビとガキは嫌いなんでね」
さりげなく敏也の方を見る万次郎。その視線に敏也が気づく。
「なんだよ。文句でもあんのか!?」
「やめなさいよ!あんた達。で、所長。その子がどうしたんですか?」
「うむ。ワシのオファーを受けてくれたんじゃ」
一瞬、驚く凜太郎。
「い、いや。まだそうと決めたわけじゃ――」
凜太郎が言い終わる前に照子が凜太郎の言葉を遮る。
「じゃあ!ついに見つかったんですね!!」
「うむ。私の理想に一番近い人物といえるじゃろう。凜太郎。ちょっと後ろを向いてくれんか?」
「えっ?あっ、はい……」
晋助に言われた通り、後ろへ向き直る凜太郎。
「こ、これは……!」
「たしかに、ナイスなぷりけつね」
「所長!やったじゃねぇか!!」
凜太郎の尻を一点に見つめる3人。
「あ、あの~……」
「おぉ、すまんの。もういいぞ。これ!お前ら!!見過ぎじゃ!ハウス!!照子、ヨダレが出とるぞ」
「す、すみません。私としたことがつい……」
自分の服の袖で恥ずかしそうに顔を赤らめながら口を拭う照子。
「1つ、訊いていいですか?」
「なんじゃね?」
「俺の尻と今回の件って何か関係あるんですか?」
「よくぞ訊いてくれた!!」
急に大声で叫ぶ晋助。凜太郎は一瞬驚きで肩をビクつかせる。構わず同じトーンで続ける晋助。
「この地球は今、狙われておるんじゃあぁぁぁー!!」
「という設定なんですね?」
「設定というかなんというか。うーん……まぁいいわい。続けるぞ」
晋助は咳払いをした後、落ち着いた様子で話を続ける。
「おぬし、世界各地で未確認飛行物体が目撃されているのは知っておるかの?」
「はい。テレビ番組とかでたまに見ます。作り物にしてはよくできてるな、といつも感心してます」
「あれはマジじゃ。たしかに中には合成で作られたやつもあるが、本物も混じっとる」
「仮にUFOが本物だったとして、今回の件と関係があるんですか?」
「大いにある。奴らはいわゆる"偵察部隊"なんじゃ」
「偵察部隊?」
「そうじゃ。恐らくは情報を集めておるんじゃろう。おぬし、宇宙人というとどんなのを想像する?」
2~3秒考え込んだ後、凜太郎が口を開く。
「"グレイ"ってよくいわれてる、ああいうのですかね」
「そこの認識からして間違っとるんじゃ。実際の奴等は我々とほぼ見た目は変わらん。特殊な技術を使って、言語も我々と同じように喋れるらしい。そんな奴等は技術以外に我々にはない能力を持っておる。それは"巨大化"じゃ。それこそ特撮映画とかに出てくるような怪人のように巨大化するんじゃ」
「それはどこからの情報なんですか?」
「それは言えん。じゃが、たしかな筋からの情報じゃ」
「にわかには信じ難い話ですね。で、その俺達にそっくりな宇宙人が地球を狙って侵略してくる、とでも言いたいわけですか?」
「その通りじゃ」
晋助の話を聞き、深い溜め息を漏らす凜太郎。
「ハリウッド映画の見過ぎですよ、それは。作り話にしてもありきたりで面白味に欠けますね。それに、あなたの話し方だとまるで本当のことみたいに聞こえますよ」
「それがマジなんじゃ。我々はそいつらから地球を守る為に結成されたんじゃ」
「でも、なんでそこで俺の尻が出てくるんですか?それが一番謎なんですが」
「我々は尻が大好きなんじゃ!!ぷりけつこそ正義!ぷりけつこそ最強!!ぷりけつバンザイ!!」
「は、はぁ……」
「そして、我々は決意したのじゃ。我々にしか生みだせない、最強のヒーローを創ろうと!」
「最強の……ヒーロー?」
「その名も"ぷりけつヒーロー"じゃ!!」
唖然としている凜太郎。晋助は構わず話を続ける。
「もう既に変身装置も完成しておる。後はヒーローの素質を持った人材を探すだけじゃった。そんな時、お前さんがワシの前に現れたってわけじゃ」
「……一応訊きますけど、必殺技とかあるんですか?」
「ある!!ぷりけつヒーローの必殺技は尻技がメインじゃ。いや、むしろ尻技しかないと言っても過言ではない!必殺技は尻から出す!尻技オンリーじゃ!!どうじゃ!?やってみんか?」
「帰らせていただきます」
踵を返し、帰ろうとする凜太郎。晋助はそれを必死に止めようとする。
「まぁ待て待て!もちろん、タダでとは言わん。怪人を倒してくれたら、その都度報酬は支払おう」
「お、お金をくれるってことですか!?」
「地球を守る為に命を懸けて戦うのじゃ。働きに見合った対価を支払うのは当然のことじゃ。まぁいってもおぬしはまだ未成年じゃからのう。扶養のこととかあるしのぉ。そうじゃのう……怪人1体につき20万でどうじゃ?」
「に、20万!?そんなにくれるんですか!?」
「むしろ少ないくらいじゃ。お前さんがもし成人しておったら50万でもワシは喜んで出しておったじゃろう」
「や、やります!!やらせていただきます!!」
即答で返事をする凜太郎。
「現金な奴じゃのう。まぁ素直でよろしい。めんどくさい書類とかもろもろは後日渡してやるから取りに来るとええ。書類に書かれておる社名が研究所とは違うと思うが気にせんでもええ。研究所の存在は国家機密じゃからの。おぬしもここで知り得た情報や、自分がヒーローであることを絶対に口外してはならんぞ。たとえ仲のいい友達や、家族であってもじゃ」
「もし喋ったらどうなるんですか?」
「存在自体を消されるじゃろうのう。喋ったおぬしや、それを知った者も含めての」
晋助の言葉に思わず生唾を飲み込む凜太郎。
「じゃ、じゃあ、もし俺がヒーローになることを断っていたらどうするつもりだったんですか?」
「その時はおぬしの研究所や、我々に関する記憶を全て消して終わりじゃ。それくらいのことは造作もない」
「喋ったらどうして存在自体を消す必要があるんですか?同じように記憶だけを消せばいいじゃないですか」
「存在自体を消す、なんていう野蛮なことは我々じゃのうて別の人間がするのじゃ。奴等は我々みたいに優しくはないからのう。頭の固い連中なんじゃ。まぁおぬしが喋らなければいいだけの話じゃ。どうじゃ?これを聞いても、それでもヒーローになるという決心は揺るがんか?」
即答できず、考え込んでしまう凜太郎。二人の間に少しの間、沈黙が流れる。
「……やります。もし本当にヒーローになれて、しかもそれでお金も貰えるんならこんなに嬉しいことはありません!ヒーローになることは俺の、子供の頃からの夢だったんです!!」
「それを聞いて安心したわい。では、早速おぬしに変身装置を――」
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