歪んだ庭
02.虹色のアーチ
フクロウ男の言葉は、私の見ている世界をモノクロームから虹色に変えてしまったの。いいえ、変わったのはきっと私の見る目の方ね。だってほら、庭に立ち並ぶ白樺の木たちは私のことをどんな目で見ているのかしら?なんて今まで考えたことなかったもの。あの土が盛り上がったところに生えてるキノコだって本当は私を監視しているのかもしれないわ。
私は気味が悪くなってきた。まるで高いところから落ちる夢を見た時のような悪寒がして、一刻も早く自分の部屋に戻ろうとウッドデッキの方へ早歩きでむかったの。
サラサラ、サラサラ、サラサラ。
木の葉さやけく音。
ガッサガッサ、ガッサガッサ。
私が地面に落ちた葉を踏みながら歩く音。
ガサガサガサガサガサガサガサガサ。
この音は何かしら?
「やあ、どこへ行くんだい?」
後ろから声が聞こえてきた。私は心臓と脳が入れ替わったのかと思うぐらい驚いて、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには水玉模様の衣装を着た人間が立っていた。普通の人じゃないわ。だってね、服の水玉模様はペンキか何かで無理矢理に塗りたくったような雑なものだったから。普通なら自分のお洋服にペンキで絵を描いたりしないもの。
「ねえ、君はどこへ行くんだい?教えてよ?」
それと水玉男には顔がなかった。どうやら首で喋ってるみたいだわ。ヘンテコね。
「私は自分のおうちに帰りたくてウッドデッキへ向かって歩いているのよ。もう行ってもいいかしら?」
水玉男はケタケタと高笑いして、私の肩をパンパン叩いて返事をしたの。
「君のおうち?そんなのどこにあるんだい?」
「あそこにあるじゃない。」
「あそこってどそこ?どそこにあるんだい?どそこのことを言ってあそこと呼ぶんだい?」
「だからあそこよ!白樺の木の隙間に見えてるでしょ!」
私が人差し指を向けた先には何もなくて、おうちがあった場所は真っ黒に塗り潰されていたの。
「ほら何もないじゃないか。なるほど、きっと君は迷子なんだね。迷子には住所と名前を聞かないと。では聞こう。君の名前は?」
「私の名前は‥‥」
二人の間に水色の風が吹いた。
「クスクス‥‥名前は?」
「あれ、おかしいわね。自分の名前が思い出せないの。」
私がそう答えると水色男は腹を抱えて笑い始めたの。
「ひゃっひゃっひゃっ!おもしろい!薬指から手紙が届きそうだ!君の薬指からね!ヒヒヒヒ!」
不思議ね。どうして自分の名前が思い出せないの?私はおうちに帰って‥‥おうちに‥‥あれれ。
「君は迷子になったんだ。おまけにここは普通の場所じゃない。何もないけど全てがあるこの場所からはもう出られないよ。」
「出られないなんて困るの。元の場所に帰らなきゃいけないのよ。」
「元の場所ってどこだい?君はもう最初からここにいるんだよ。何故ならここは全てがある場所だからね。」
「でも私の名前がないわ。それに帰る場所だって。」
私が少し混乱していると、水玉男は首から木の枝を取り出して、自分の服の水玉模様のうちの一つを指した。
「これは何色だい?」
「それは赤色。」
水玉男はまた別の水玉を木の枝で指した。
「じゃあこれは?」
「それは青‥‥じゃなくて水色だわ。」
水玉男はまたケタケタと笑い、私の背後にある黒く塗り潰された場所を木の枝で指した。
「あんなふうに黒く塗り潰されているところはダメなところなんだ。元に戻さなきゃね。」
水玉男が木の枝を無茶苦茶に振り回すと、黒く塗り潰された場所が大きな黒い胎児になったの。
「あれは君の夢なのさ。君の理想の生活。理想の自分。理想の名前。理想の家族。理想のおうち。嘘偽りで塗り固められた理想のライフ。」
水玉男は手に持った木の枝を、黒い胎児に向けて投げ飛ばしたの。そしたら木の枝が黒い胎児に刺さってね、小さな穴があいて水が漏れてきちゃった。あれは一体何かしら。
「君の夢は終わりなのさ。ほら見てみな。君が言ってたおうちなんて影も形もない。あるのは小さな泉だけさ。」
私は心がからっぽになった感じがしたわ。それはまるで学校から帰ってきたら自分のオモチャ箱の中身が全部なくなっているかのような、衝撃的なさびしさだわ。私は胸が冷たくなるような気がして目を閉じたの。
どこか遠くの方で誰かが歌っている。
木の葉さやけく森の中
私は夢から覚めてしまったの
マントルピースに置かれた写真
花壇に埋めたら木の葉は笑う
「私は自分がなんなのかわからなくなっちゃったの。」
「僕だって君と同じさ。自分が何者かなんてわからない。一つだけ言えることは、僕は産まれた時からずっと、君みたいな迷える人間に真実を見せて歩いてるってことぐらいだね。」
「私はこれからどうすればいいの?」
「ここには全てがある。そして何もない。真実なんて空虚なものさ。手品のタネ明かしだって、宇宙人の侵略だって、魔法使いの杖だって、悲しい人間の妄想だよ。君は真実を知ってしまっただけだ。僕らと同じようにね。」
水玉男はそう言うとまたケタケタ笑いながら森の奥へ消えていったわ。これからどうすればいいのかしら。
私は気味が悪くなってきた。まるで高いところから落ちる夢を見た時のような悪寒がして、一刻も早く自分の部屋に戻ろうとウッドデッキの方へ早歩きでむかったの。
サラサラ、サラサラ、サラサラ。
木の葉さやけく音。
ガッサガッサ、ガッサガッサ。
私が地面に落ちた葉を踏みながら歩く音。
ガサガサガサガサガサガサガサガサ。
この音は何かしら?
「やあ、どこへ行くんだい?」
後ろから声が聞こえてきた。私は心臓と脳が入れ替わったのかと思うぐらい驚いて、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには水玉模様の衣装を着た人間が立っていた。普通の人じゃないわ。だってね、服の水玉模様はペンキか何かで無理矢理に塗りたくったような雑なものだったから。普通なら自分のお洋服にペンキで絵を描いたりしないもの。
「ねえ、君はどこへ行くんだい?教えてよ?」
それと水玉男には顔がなかった。どうやら首で喋ってるみたいだわ。ヘンテコね。
「私は自分のおうちに帰りたくてウッドデッキへ向かって歩いているのよ。もう行ってもいいかしら?」
水玉男はケタケタと高笑いして、私の肩をパンパン叩いて返事をしたの。
「君のおうち?そんなのどこにあるんだい?」
「あそこにあるじゃない。」
「あそこってどそこ?どそこにあるんだい?どそこのことを言ってあそこと呼ぶんだい?」
「だからあそこよ!白樺の木の隙間に見えてるでしょ!」
私が人差し指を向けた先には何もなくて、おうちがあった場所は真っ黒に塗り潰されていたの。
「ほら何もないじゃないか。なるほど、きっと君は迷子なんだね。迷子には住所と名前を聞かないと。では聞こう。君の名前は?」
「私の名前は‥‥」
二人の間に水色の風が吹いた。
「クスクス‥‥名前は?」
「あれ、おかしいわね。自分の名前が思い出せないの。」
私がそう答えると水色男は腹を抱えて笑い始めたの。
「ひゃっひゃっひゃっ!おもしろい!薬指から手紙が届きそうだ!君の薬指からね!ヒヒヒヒ!」
不思議ね。どうして自分の名前が思い出せないの?私はおうちに帰って‥‥おうちに‥‥あれれ。
「君は迷子になったんだ。おまけにここは普通の場所じゃない。何もないけど全てがあるこの場所からはもう出られないよ。」
「出られないなんて困るの。元の場所に帰らなきゃいけないのよ。」
「元の場所ってどこだい?君はもう最初からここにいるんだよ。何故ならここは全てがある場所だからね。」
「でも私の名前がないわ。それに帰る場所だって。」
私が少し混乱していると、水玉男は首から木の枝を取り出して、自分の服の水玉模様のうちの一つを指した。
「これは何色だい?」
「それは赤色。」
水玉男はまた別の水玉を木の枝で指した。
「じゃあこれは?」
「それは青‥‥じゃなくて水色だわ。」
水玉男はまたケタケタと笑い、私の背後にある黒く塗り潰された場所を木の枝で指した。
「あんなふうに黒く塗り潰されているところはダメなところなんだ。元に戻さなきゃね。」
水玉男が木の枝を無茶苦茶に振り回すと、黒く塗り潰された場所が大きな黒い胎児になったの。
「あれは君の夢なのさ。君の理想の生活。理想の自分。理想の名前。理想の家族。理想のおうち。嘘偽りで塗り固められた理想のライフ。」
水玉男は手に持った木の枝を、黒い胎児に向けて投げ飛ばしたの。そしたら木の枝が黒い胎児に刺さってね、小さな穴があいて水が漏れてきちゃった。あれは一体何かしら。
「君の夢は終わりなのさ。ほら見てみな。君が言ってたおうちなんて影も形もない。あるのは小さな泉だけさ。」
私は心がからっぽになった感じがしたわ。それはまるで学校から帰ってきたら自分のオモチャ箱の中身が全部なくなっているかのような、衝撃的なさびしさだわ。私は胸が冷たくなるような気がして目を閉じたの。
どこか遠くの方で誰かが歌っている。
木の葉さやけく森の中
私は夢から覚めてしまったの
マントルピースに置かれた写真
花壇に埋めたら木の葉は笑う
「私は自分がなんなのかわからなくなっちゃったの。」
「僕だって君と同じさ。自分が何者かなんてわからない。一つだけ言えることは、僕は産まれた時からずっと、君みたいな迷える人間に真実を見せて歩いてるってことぐらいだね。」
「私はこれからどうすればいいの?」
「ここには全てがある。そして何もない。真実なんて空虚なものさ。手品のタネ明かしだって、宇宙人の侵略だって、魔法使いの杖だって、悲しい人間の妄想だよ。君は真実を知ってしまっただけだ。僕らと同じようにね。」
水玉男はそう言うとまたケタケタ笑いながら森の奥へ消えていったわ。これからどうすればいいのかしら。