歪んだ庭
私は白樺の立ち並ぶ霧雨の森をずっと歩いているの。白黒の世界に慣れてしまってリンゴの色がわからないから、七色の門を探して歩いているの。時折キラキラと輝く場所があって、とても神秘的だわ。まるでダイアモンドの粉をばら撒いたかのような。
「ナマズだからナマズ。生々しいナマズ。僕はナマズのナマズ。ナマズ風のナマズ。」
森を歩いているとナマズのおっさんとたまにすれ違うけど、彼は目隠しをしているから私がいることに気付いてないみたい。それとも気付いているけど気にしてないだけなのかな。
「僕はナマズ。ナマズの国からやってきたナマズ。」
そうだ、いいこと考えたわ。ナマズのおっさんの目隠しを外せばいいのよ。そうすればナマズのおっさんは自分が人間だって気付くからね。私はさっそくナマズのおっさんの後ろに忍び寄って、立ち止まるのを待ったわ。ナマズのおっさんはたまに意味もなく立ち止まるの。
白い花は黒い花になれない
黒い花は泣いた 白い花も泣いた
お互いに 同じになれず 泣き続けた
ナマズのおっさんが立ち止まったから、すかさず後ろから目隠しを外したの。
「わわわ、僕はナマズ。ナマズ。ナマズ?ナマズじゃない。僕はナマズじゃない!?」
「あなたは人間よ。ナマズじゃないわ。」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!ナマズじゃない!」
ナマズのおっさんは自分の姿を見て混乱して、近くの木に頭をぶつけて倒れちゃった。もしかして私のせいかしら。ごめんなさい。
「僕が君にしたことと同じだね。真実を見せただけのことさ。残酷だよね。せっかく幸せな夢を見ていたのに。残酷だよね。ヒヒヒヒ。」
いつの間にか水玉男が後ろに立っていたの。
「ナマズのおっさんは死んじゃったよ。君に幸せな夢を壊されたショックで死んじゃったよ。君が殺したんだよ。人殺しだね。人殺しだね。」
「ごめんなさい。ナマズさん。」
私は謝るしかなかったわ。だって死んじゃったんだもの。私は自分勝手な行動でナマズのおっさんを殺したんだ。
「僕は死んでないよー。ナマズだよー。ナマズのおっさんだよー。」
「おやおや、木で頭を打った衝撃かな。さっきの記憶がなくなってるよ。ほら、今の内に目隠しをしてあげな。」
私は言われるがままにナマズのおっさんに目隠しをしたわ。死んでなくて本当によかった。
「ナマズのおっさんはもう森の詩に命まで握られてるんだ。ああなると手の施しようがない。君も白黒の目をしているね。早くどうにかしないと僕みたいに首のない人間になっちゃうよ?ヒヒヒヒ。」
私はその場にいたくなかったから走って逃げたわ。理由はよくわからないけど、気付いたらいけない気がしたの。
「コウモリのフンに注意!コウモリのフンに注意!僕はコウモリのフンに注意おじさんだよ!」
私の目の前に顔だけが浮いていて、コウモリのフンに注意って言ってるの。森の中って不思議ね。
「コウモリのフンに注意おじさん、どうもありがとう。気を付けて歩くわ。」
「コウモリのフンに注意おじさんにも注意!コウモリのフンに注意おじさんは人の頭を叩くおじさんを呼び寄せるよ!」
「本当なの!?もしそれが本当なら、人の頭を叩くおじさんは、きっとコウモリのフンより危ないわ!逃げなきゃ!」
白樺の木がガサガサと音を立てる。この音は。耳の中に虫を入れられてる音なの。頭の中から聞こえてくる不思議な音楽。これはピアニカの音ね。気が付けば私は音譜の階段にいたの。一歩でも踏み外せば暗闇の中に落ちてしまう。落ちたらもう帰ってこれなさそうね。
「ようこそ。音の階段へ。ここは生と死の狭間。すなわち君は死の世界に片足を踏み入れている。」
「どなた?姿が見えないけど、どこにいるの?それに私はまだ死にたくないわ。」
「君は今、暗闇にいる。何も見えないだろう?だから音を頼りに音の階段を上っていくのだ。落ちれば死の世界が待っているぞ。」
「何も見えないのに、どうやって進めばいいの?」
どうすればいいのかわからず泣き出しそうになっている私のことも考えず、明るくてコミカルなピアニカの音が飛び跳ねているの。でもこんな時に暗い曲を演奏されるよりはマシかしら。
私は軽快に鳴り響く音色を聞いてみたの。音の階段は目に見えないから音で進まないといけないわ。
ドレミファソラシ、それぞれの音には色がついてるから、その色を頼りに私は真っ暗な階段を進む。
ドは赤色。レは橙色。ミは黄色。そうやって色をイメージしながら暗い階段を進んでいくの。一歩踏み外せば死んじゃうんだけど、楽しい音楽のおかげで怖くはなかったわ。音楽って不思議ね。
「おーい!白黒の少女よ!」
「白黒の少女。私のことかしら?」
「おーい!生きてるかー?息はストロベリーの香りがするかー?」
私が目を開けると、そこにはフクロウ男がいた。
「なんだ生きていたのか。いや、死んでいたのか。死んでいたから今こうやって生き返ったのか。そうだ。君は死んでいたのだ。ホーホー!」
そう言ってフクロウ男は飛び去った。
頭が痛いの。きっとコウモリのフンに注意おじさんが呼び出した、なんだっけ、なんかいう奴に頭を叩かれたんだわ。よかった死ななくて。
しばらく座っているとフクロウ男が戻ってきたの。フクロウ男は飛び去った後にまた一回戻ってくる癖があるようね。
「霧の中に太陽の光が入ると、七色に輝くだろう?虹ってやつだよ。ほら、そこら中でキラキラ光ってる。今の君ならわかるだろ?ホーホー!」
フクロウ男はまた飛び去った。
深い森の奥で七色に光る門。さっきからキラキラ光っている場所があったのは、太陽が霧雨を七色に光らせていたのね。どうして気付かなかったんだろう?七色を忘れていたから?
私はすぐにキラキラと光る門、つまり小さな虹の下を潜った。真っ白だったダイアモンドの粉が、まるで色鉛筆の国に紛れ込んだように光っているの。虹の中ってこんなふうになってたのね。とても神秘的だわ。
白黒の森が真っ白になって、音が消えて、私は真っ白なキャンバスに放り出されたの。
でもすぐに赤い鉛筆がリンゴを描いてくれたわ。私がそれを手に取ると、次は青い鉛筆がナイフを描いてくれたから、それを使ってリンゴの皮を剥いて食べたの。黄色い鉛筆が描いた黄色いクズカゴに皮を捨てたら、緑の鉛筆が緑のベッドを描いてくれて、私はそのベッドに寝転がったの。
どこからともなく楽しい音楽が聞こえてきて、それに合わせてたくさんの色鉛筆がやってきたわ。色鉛筆たちはくるくると回転しながら一冊の絵本を描きあげて、私はそれ受け取って緑のベッドの上で読んだの。そしたらなんだか眠くなっちゃった。
白と黒の花は 同じになれない
白い花が泣けば 黒い花は笑う
黒い花が笑えば 白い花が泣く
白い花と黒い花 ふたりで笑う日はない
もしあるとすれば それはいけないことだ
白い花と黒い花?そういえば遠い昔に、白と白に挟まれて白に染まったんだっけ。そしたらフクロウ男がやってきて私の意見に反対してきたんだわ。でも私あんな場所で何してたのかしら。小さな泉が黒に染まって。けっきょく私は白なのか黒なのかわからないけど、どっちだっていいわ。
私の後ろに霧雨の森があるけど、もう入りたくない。次はどこへ行けばいいのかしら。
「ナマズだからナマズ。生々しいナマズ。僕はナマズのナマズ。ナマズ風のナマズ。」
森を歩いているとナマズのおっさんとたまにすれ違うけど、彼は目隠しをしているから私がいることに気付いてないみたい。それとも気付いているけど気にしてないだけなのかな。
「僕はナマズ。ナマズの国からやってきたナマズ。」
そうだ、いいこと考えたわ。ナマズのおっさんの目隠しを外せばいいのよ。そうすればナマズのおっさんは自分が人間だって気付くからね。私はさっそくナマズのおっさんの後ろに忍び寄って、立ち止まるのを待ったわ。ナマズのおっさんはたまに意味もなく立ち止まるの。
白い花は黒い花になれない
黒い花は泣いた 白い花も泣いた
お互いに 同じになれず 泣き続けた
ナマズのおっさんが立ち止まったから、すかさず後ろから目隠しを外したの。
「わわわ、僕はナマズ。ナマズ。ナマズ?ナマズじゃない。僕はナマズじゃない!?」
「あなたは人間よ。ナマズじゃないわ。」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!ナマズじゃない!」
ナマズのおっさんは自分の姿を見て混乱して、近くの木に頭をぶつけて倒れちゃった。もしかして私のせいかしら。ごめんなさい。
「僕が君にしたことと同じだね。真実を見せただけのことさ。残酷だよね。せっかく幸せな夢を見ていたのに。残酷だよね。ヒヒヒヒ。」
いつの間にか水玉男が後ろに立っていたの。
「ナマズのおっさんは死んじゃったよ。君に幸せな夢を壊されたショックで死んじゃったよ。君が殺したんだよ。人殺しだね。人殺しだね。」
「ごめんなさい。ナマズさん。」
私は謝るしかなかったわ。だって死んじゃったんだもの。私は自分勝手な行動でナマズのおっさんを殺したんだ。
「僕は死んでないよー。ナマズだよー。ナマズのおっさんだよー。」
「おやおや、木で頭を打った衝撃かな。さっきの記憶がなくなってるよ。ほら、今の内に目隠しをしてあげな。」
私は言われるがままにナマズのおっさんに目隠しをしたわ。死んでなくて本当によかった。
「ナマズのおっさんはもう森の詩に命まで握られてるんだ。ああなると手の施しようがない。君も白黒の目をしているね。早くどうにかしないと僕みたいに首のない人間になっちゃうよ?ヒヒヒヒ。」
私はその場にいたくなかったから走って逃げたわ。理由はよくわからないけど、気付いたらいけない気がしたの。
「コウモリのフンに注意!コウモリのフンに注意!僕はコウモリのフンに注意おじさんだよ!」
私の目の前に顔だけが浮いていて、コウモリのフンに注意って言ってるの。森の中って不思議ね。
「コウモリのフンに注意おじさん、どうもありがとう。気を付けて歩くわ。」
「コウモリのフンに注意おじさんにも注意!コウモリのフンに注意おじさんは人の頭を叩くおじさんを呼び寄せるよ!」
「本当なの!?もしそれが本当なら、人の頭を叩くおじさんは、きっとコウモリのフンより危ないわ!逃げなきゃ!」
白樺の木がガサガサと音を立てる。この音は。耳の中に虫を入れられてる音なの。頭の中から聞こえてくる不思議な音楽。これはピアニカの音ね。気が付けば私は音譜の階段にいたの。一歩でも踏み外せば暗闇の中に落ちてしまう。落ちたらもう帰ってこれなさそうね。
「ようこそ。音の階段へ。ここは生と死の狭間。すなわち君は死の世界に片足を踏み入れている。」
「どなた?姿が見えないけど、どこにいるの?それに私はまだ死にたくないわ。」
「君は今、暗闇にいる。何も見えないだろう?だから音を頼りに音の階段を上っていくのだ。落ちれば死の世界が待っているぞ。」
「何も見えないのに、どうやって進めばいいの?」
どうすればいいのかわからず泣き出しそうになっている私のことも考えず、明るくてコミカルなピアニカの音が飛び跳ねているの。でもこんな時に暗い曲を演奏されるよりはマシかしら。
私は軽快に鳴り響く音色を聞いてみたの。音の階段は目に見えないから音で進まないといけないわ。
ドレミファソラシ、それぞれの音には色がついてるから、その色を頼りに私は真っ暗な階段を進む。
ドは赤色。レは橙色。ミは黄色。そうやって色をイメージしながら暗い階段を進んでいくの。一歩踏み外せば死んじゃうんだけど、楽しい音楽のおかげで怖くはなかったわ。音楽って不思議ね。
「おーい!白黒の少女よ!」
「白黒の少女。私のことかしら?」
「おーい!生きてるかー?息はストロベリーの香りがするかー?」
私が目を開けると、そこにはフクロウ男がいた。
「なんだ生きていたのか。いや、死んでいたのか。死んでいたから今こうやって生き返ったのか。そうだ。君は死んでいたのだ。ホーホー!」
そう言ってフクロウ男は飛び去った。
頭が痛いの。きっとコウモリのフンに注意おじさんが呼び出した、なんだっけ、なんかいう奴に頭を叩かれたんだわ。よかった死ななくて。
しばらく座っているとフクロウ男が戻ってきたの。フクロウ男は飛び去った後にまた一回戻ってくる癖があるようね。
「霧の中に太陽の光が入ると、七色に輝くだろう?虹ってやつだよ。ほら、そこら中でキラキラ光ってる。今の君ならわかるだろ?ホーホー!」
フクロウ男はまた飛び去った。
深い森の奥で七色に光る門。さっきからキラキラ光っている場所があったのは、太陽が霧雨を七色に光らせていたのね。どうして気付かなかったんだろう?七色を忘れていたから?
私はすぐにキラキラと光る門、つまり小さな虹の下を潜った。真っ白だったダイアモンドの粉が、まるで色鉛筆の国に紛れ込んだように光っているの。虹の中ってこんなふうになってたのね。とても神秘的だわ。
白黒の森が真っ白になって、音が消えて、私は真っ白なキャンバスに放り出されたの。
でもすぐに赤い鉛筆がリンゴを描いてくれたわ。私がそれを手に取ると、次は青い鉛筆がナイフを描いてくれたから、それを使ってリンゴの皮を剥いて食べたの。黄色い鉛筆が描いた黄色いクズカゴに皮を捨てたら、緑の鉛筆が緑のベッドを描いてくれて、私はそのベッドに寝転がったの。
どこからともなく楽しい音楽が聞こえてきて、それに合わせてたくさんの色鉛筆がやってきたわ。色鉛筆たちはくるくると回転しながら一冊の絵本を描きあげて、私はそれ受け取って緑のベッドの上で読んだの。そしたらなんだか眠くなっちゃった。
白と黒の花は 同じになれない
白い花が泣けば 黒い花は笑う
黒い花が笑えば 白い花が泣く
白い花と黒い花 ふたりで笑う日はない
もしあるとすれば それはいけないことだ
白い花と黒い花?そういえば遠い昔に、白と白に挟まれて白に染まったんだっけ。そしたらフクロウ男がやってきて私の意見に反対してきたんだわ。でも私あんな場所で何してたのかしら。小さな泉が黒に染まって。けっきょく私は白なのか黒なのかわからないけど、どっちだっていいわ。
私の後ろに霧雨の森があるけど、もう入りたくない。次はどこへ行けばいいのかしら。