ひとつだけ


「あっ」

手を伸ばした瞬間、いつのまにか隣に立ってた方と手が触れてしまった。

「ごめんなさいっ」
「いえこちらこそ」

どちらからともなく、手を引っ込めた。

あ……。

ふんわりと笑ったその人はその犬のことを思い出させた。

うん、笑顔があのコを思い出させるんだ、きっと。


彼はその本を指さす。

「この本お好きなんですか?」

私とその本を交互に見ながら訊いてくる。

「はい」

私の返事をきくと、彼は本当に嬉しそうに笑う。
その笑顔はやっぱりあのコを思い出させてくれる。

「そうなんですね。僕も大好きなんです。子供の頃から。絶版になってたし、実家にはもうないから。いやー会えるとは。嬉しいなー」

彼は本当に嬉しそうにそれを手に取るとパラパラとめくっていく。

私も、見たいな……。


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