アオハル紙飛行機




夏子は「ふうん」と鼻にかけたような声を空気に伸ばし、ゆっくりと顔を上げた私に視線を寄越す。夏子の強さがとても、素敵で眩しい。






『青海は、勝部先輩とは遠すぎて、青井くんとは近すぎるんだと思う』

「・・・うん」

『それに、結局青海って直接その人にぶつかってないじゃん。いくら見てても、ぶつからないとわからないことって、絶対あると思う』





夏子の、言う通りだ。私はたったの一度だって勝部先輩ともアオともぶつかったことなんて、ない。変化が怖いと嘆きながら、変わりゆくみんなをただただ眺めて置いてけぼりにされているだけだ。






『拓人くんが、ぶつかってきてくれる度に好きが募って、私も拓人くんに想いを伝えるためにぶつからなきゃって思ったよ』

「・・・めちゃくちゃ、かっこいい」

『青海。ぶつかったって、大して変わらないものだよ、人って。逆に自分の気持ちに気づくくらい』

「・・・そんなもん、?」

『そんなもんでしょ。変わんない変わんない。変わったって思うなら、それはずっと気持ちに蓋してた時くらいじゃない?』






夏子は困ったようにくすくす笑うと、可愛くラッピングされた袋を持つ手を顔の前で振る。そんな夏子に、ほんの僅かな勇気と元気をもらって笑い返す。






『やっぱり青海も隣のクラス行こうよ』

「・・・行こう、かな」






ぐっと夏子に腕を引かれて、立ち上がり隣のクラスに向かう。お昼休みの廊下ではバレンタインデーに俄かにはしゃぐ男女。




その奥、角を曲がれば購買がある廊下で勝部先輩と彼女さんが2人でチョコを交換している姿が目に映る。






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