炎のごとくっ!
家に帰ってから夕食を食べた後、軽くストレッチをして庭に出る。

今日からこの庭でピッチング練習をしよう、そう決めた。

しばらく投げ込むこと30分、風呂から出てきた柚が現れた。

「こんな時間に何やってんの?周りに迷惑じゃない?」

「いや、この周りに家は殆ど無いぞ。今日一緒に探索に行ったのに見てないのか?」

そうこの周りは超ド田舎である。家の周りは祖父の田んぼと畑ばかりでご近所さんとは家の距離が結構離れている。

だから少々ピッチング練習しようが、外で柚と話そうが周りには迷惑が掛からない。数少ない田舎の長所だ。

「ふーん。ところで調子はどうなの?見たところ気分良さそうだけど」

「いや、調子は悪いな。変化球もコントロールがバラバラだ。球も走ってないし。ただ、投げていて楽しいな。」

そう、例え調子が悪かろうとピッチングしていると気分が良い。

こんな気分は中学の県決勝以来だ。

あの時は無我夢中でただ投げることだけに意識を集中させていた。

そうしなければ俺の中の何かが壊れそうだった。

「お兄ちゃんさ・・・青南の野球推薦蹴らずに入学していたらさ・・・」

柚の言葉に俺は反応する。

「柚、言うな。青南には寮が無いから俺は通うことが出来ないんだ。市内に身内が居たら行けたけど爺ちゃんはこんな田舎住んでいるし、無理なんだ。」

そう、俺は岡山の青南や関央、城西。県外なら広島の黄龍、大阪の利生社、光陰などから推薦が来ていた。

だが、学費の問題があって県外の私学には通えないし、男子校は嫌だから関央は蹴り、公立の進学校の城西は学力が足りないから無理だった。

唯一、行けそうな青南も家庭の事情で断念して鳥取に来た。

「柚・・・もうガタガタ言ってもしゃあねぇだろ。こうなりゃ、このクソド田舎の鳥取で全国行ってやるしかねぇ」

「だよね・・・」

そう・・・俺達二人にはある夢があった。
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