俺のことなんて思い出さなくていいから
「お疲れちゃ~ん!…って誰だ、その美人ちゃんは?」


「事件の被害者?ってかいい加減、その昭和チックな挨拶止めて下さい。」



永錵警察署 刑事課所属の各務(カガミ)と相棒の潭穆(タンボク)は、須戎と豹童、そしてソファーに座る一人の女性を見やる。



「ううん。警ら中に歩道の真ん中で立ってて、職質しようと思って声かけたんだけど。」


「全然喋らないんですよぉ。身元を確認出来る物も無いし困っちゃってぇー。」



「女豹でも女は落とせないか…。ナイスガイならバシッといけるんじゃないか?」


「あたしは女豹じゃありませんー!残念そうに言わないでくださいぃー!」


「ナイスガイでも無いし。っていうか、ガイじゃないって何回訂正すればいいんですか!?」



各務は名字からあだ名をよく付ける。


自分のことは刑事の鏡とか良く言うが、他人から言わせれば反面教師のお手本。

潭穆に至ってはうどの大木と不名誉極まりなく、あだ名というより親父ギャグの域である。


もはや訂正のくだりが日常化してきている感は否めない。



「とにかく!そんなこんなで、とりあえず保護してきた訳ですよ。あの辺は事故や轢き逃げが多いから。」


「保護なら生安課だよな?なんでここにいるの?」



「俺に会いに来たんだよなぁ~」


「……………………。」



ニッコリ顔を覗き込む各務に驚きもせず、女性は無表情のままだ。



「止めて、くだ、さいっ!もー各務さんの顔はただでさえ強烈なんですから、ドアップはキツイです。」



潭穆は心底嫌そうに各務を引き離す。



「俺の顔は凶器じゃねえ!」


「なにもそこまで言っていないですけど…。」


「きゃはっ!コントみたーい。」



「喜ばない。行ったわよ生安課に。だけど手いっぱいでね、取り敢えず、よ。それに……」



ないしょ話のように声をひそめる。



「今のわたし達の会話を聞いて驚いたり呆れたり全くしないし、ピクリとも表情が変わらないなんてなんか怖くてね。」



怒号や胡散臭いのには慣れているが、こうも無反応だと気味が悪い。



「確かに。各務さんに無反応なのはおかしい。」



「どういう意味だ、それは。俺が」


「須戎と豹童はいるか?」



各務が不満を口にしかけた時、不機嫌全開な鴟擾と見るからに頭をかかえる網走が入ってきた。
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