箱庭の世界
あまりにも広いため取り付けたエレベーターに乗り込み最上階で降りる。
エレベーターの中もそうだけど、この神殿は何から何までとっても豪華。
大理石の床を覆った上質な黒のカーペットが靴の音を掻き消してくれる。
迷路のようにぐねぐね曲がっている道の最奥が私の部屋。
どの扉も黒いけど、“最奥の開かずの間には近寄るな”これは暗黙の了解。
誰も私の部屋には近寄らない。近寄れない。
……危険だからね。
いつものように自室へ向かおうとした足が自然と止まった。
「………誰」
息を殺して注意深く周りを警戒する。
相手は気配を殺してるようだけど、私には分かる。
………誰か、いる。
長年培ってきた最早野生の勘ともいうべきもので咄嗟に飛び退いた。
一瞬遅れて私の元いた位置に鋭利なナイフが突き刺さっていた。
あと一秒遅かったら確実に息の根を止められていたというぐらいギリギリ。
……心臓に悪い。
「………ゆか?」
「…………ん。なな、お帰り」
今まで誰も居なかったはずの暗がりにフランス人形みたいな女の子がぬっと現れた。
「ただいま」
この子は佐々木原ゆか。
私の右腕ともいうべき存在で、私の側近。
黒のゴシックロリータファッションを私服と豪語する変わった子だけど腕は確かだし何より可愛い。
自分とおそろいの洋服を着せた熊のぬいぐるみのエリザベスも、ツインテールにしてくるりとカールされた髪型もお人形みたいに整っているその顔にとてもよく似合っていて。
ゴスロリから垣間見える、溢れんばかりの胸の谷間に刻み込まれた揚羽蝶の刺青が、その存在を強く主張している。
「これからお仕事?」
「……」
こくんと頷くゆかは抱き締めたいぐらい可愛い。
ダークファンタジーとかに出てくる黒魔術とかやってそうな魔女のキャラクターに似てる。
性格にちょっとどころじゃなく問題があるんだけど。
「………今日は邪魔な人間をやっと排除できるの。えへへ……」
表情筋が乏しくて滅多に笑みを見せないゆかが唯一人の悲鳴を聞いているときだけ満面の笑顔を見せるってんだから人生何があるかわからない。
超が付く程のドSでサディスティックな彼女は影で“女帝”なんて呼ばれてる。
こんなに愛らしいゆかが話す内容はあまりにもグロテスクで放送禁止用語がばんばん飛び交っているけど。
「そっか。行ってらっしゃい」
私も対して変わらない。