カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない

それ以来、モニカはますますリュディガーを避けるようになってしまう。彼を怒らせてはいけないと、二階にすら近づかないありさまだ。

中庭に出ると窓からリュディガーが見ていることがあるので、毎日楽しみにしていた薔薇摘みもやめてしまった。

けれど、オータム・ダマスクローズの蕾が綻びはじめたと庭師が教えに来てくれて、開花を楽しみにしていたモニカは見にいきたくてたまらなくなる。

(どうしよう、とても見にいきたいけど……リュディガー殿下に見つかったら、なんだか怖いし……)

もともと内気なモニカはもはや彼の視界に入ることさえ萎縮していたが、ずっと楽しみにしていた開花を見ることもあきらめられず、うんと悩んでからひとつの策を思いついた。

それは、まだ誰も起きてこない早朝にこっそりと中庭に行くことだった。

(夜明け頃ならきっとリュディガー殿下もまだ起きてこられないわ。庭師のおじさんも起きていないかもしれないけど……いいわ、ひとりで行っちゃおう)

母からは外に出るときは必ず侍女をつけなくてはいけないと言われているが、中庭ぐらいなら大丈夫だろうとモニカは考える。

そうして翌朝、日が昇る時刻に目を覚ますと、モニカは白い綿のカジュアル・ドレスをひとりで着て足音をたてないように部屋から出ていった。城の玄関口には警備の兵が立っているため、厨房の裏口からこっそり中庭へ出る。

日が昇り始めてきたので足元に困ることはなかったが、湖や林が近いため外は朝もやに煙っていた。

視界の悪い中、オータム・ダマスクローズの花壇の位置を思い出しながら、モニカは中庭を歩く。半円アーチの外廊下を横切り、花壇に繋がる石畳の道を駆けだしたときだった。

「きゃっ!」

朝露で湿った石畳に足を滑らせ、モニカは前のめりに転んでしまった。
 
< 10 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop