カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
しかも運の悪いことに滑った足をくじいたようで、激しい痛みを右の足首に感じる。
「いっ……た……」
モニカはなんとか身体を起こすと、濡れた地面に尻をつけて座り込んだ。白いドレスは泥で汚れ、ひどく情けない姿になってしまった。
(どうしよう。こっそり抜け出したのに、服を汚してこんな怪我までしてしまって……。きっと叱られる)
くじいた足首が痛くて立ち上がることもできず、モニカは悲嘆に暮れる。
(ばちが当たったんだわ……。お母様との約束をやぶったり、リュディガー殿下の目を避けようとコソコソしたから……)
自分のしたことが途端に罪深いものに思えて、モニカはその場に座り込んだままグスグスと泣きだしてしまった。
少し晴れてきたもやの向こうに、転んだ拍子に飛んでいってしまったサンハットが見える。青いリボンのついたお気に入りの帽子に手を伸ばすが、座ったままでは届かない。
そのとき、もやの向こうから手が伸びて誰かがモニカのサンハットを拾い上げた。
驚いて目を丸くした彼女の前に姿を現したのは――絹のシャツとトラウザーズ姿のリュディガーだった。
「あ……」
彼の姿を見つめ、モニカは言葉をなくす。
起き抜けなのだろうか、いつもきれいに横へ流している前髪が今は随分とラフだ。けれど表情はやはりいつもと変わらず厳めしい。眉間に皺を寄せた状態でモニカを見下ろしている。
リュディガーがなぜこんなところにいるかはわからないが、地面に座り込んでいる自分を怪訝に思っているのだろうとモニカは感じた。
(きっと叱られる……ううん、呆れられるわ)
遠慮なく向けられる視線にたえきれず、顔をうつむかせてしまう。けれど。