カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
「あなたはあまり俺に頼りたくないようだな。同じ屋根の下で過ごす親戚を気遣ったつもりだが、迷惑だったか」
「い、いえ! そんなことは……!」
意外なことを言われてしまい、モニカは必死になって首を横に振った。迷惑などと思っているわけではない。ただ恐縮して戸惑っているだけなのだ。
せっかく助けに来てくれたのに気を悪くさせただろうかと、モニカは抱かれている腕の中からそっと彼の顔を盗み見た。
前髪をラフにしているせいか普段より若々しく見える顔は凛々しく端正で、うっかり見惚れそうになる。
まだ異性に恋をしたことのないモニカにも、彼の容姿が男性として魅力的だということは理解できた。
名門の家柄に生まれ選ばれた血筋を持つせいだろうか、二十歳という若さでもリュディガーは充分に威厳と品格を感じさせる。それは魅力でもあるが、まだ少女であるモニカには畏怖にも感じられた。
けれどしっかりと抱きかかえてくれる大きな手は頼もしく温かくて、あんなに強く覚えた緊張感は次第に消えていった。
(近づきがたいお方だと思ってたけど……そうでもないのかも……)
そんなことを思っているうちにリュディガーは裏口から城内に入り、モニカを部屋の前まで送り届けてくれた。
「今、侍女を呼ぶ。そこで待ってるといい」
モニカを腕から降ろし扉の前でそう言うと、彼は踵を返してさっさと行ってしまう。どうやら部屋にまで入るのは遠慮しているようだ。
どんどん廊下の奥へ遠ざかっていくリュディガーの姿を見てハッとしたモニカは、慌ててその背に呼びかける。
「あっ、あの……! ありがとうございました、リュディガー殿下!」
内気な彼女にとっては、頑張って出した大声だった。
けれど彼は振り向きもしなければ足も止めなかったので、勇気を出したモニカの礼は届いたかどうかわからない。