カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない


翌日。
モニカは城の厨房を借りて菓子作りに励んでいた。

捻った足は軽いねんざで、しばらくは外を歩いたりエラやニクラスと遊んだりはできそうにないが、オーブンと調理台の間を行き来するぐらいなら大丈夫そうだ。

エルヴィンやニクラスが喜んでくれるので、ここに来てからはほぼ毎日お茶菓子を作っていたが、今日はラズベリージャムを使った甘いクッキーの他に、カッテージチーズを挟んだビスケットも焼いている。

そうして焼き上がってからしばらく置いて味を馴染ませると、モニカは居間へ持っていくトレーとは別に、薔薇の絵がついた白磁の皿へチーズのビスケットを盛った。

(これならリュディガー殿下のお口にも合うかしら……)

可愛らしく膨らんだ三日月形のビスケットを見て思う。

彼は甘いものが苦手だとエルヴィンから聞いていたので、甘みを抑えた菓子を作ってみたのだが、果たして食べてもらえるだろうか。

部屋へ持っていったところで迷惑だと叱られるだろうかと躊躇もしたけれど、モニカはどうしても昨日のお礼がしたいと思ったのだ。

昨日助けられてからモニカは彼のことばかり考えている。リュディガーのことを厳格で近づきがたいとずっと感じていたが、もしかしたらそれは自分の思い込みだったのかもしれない。

怪我をしたモニカを見つけすぐに駆けつけただけでなく、わざわざ自らの手で部屋にまで運んでくれた彼は、少なくとも冷たい人間ではないだろう。

そんな彼に感謝の気持ちを伝えたくて、モニカはワゴンにティーセットとビスケットの皿を乗せると、侍女に手伝ってもらいながらそれをリュディガーの部屋まで運んだ。

リュディガーは今日も朝から執務室にこもっている。浮彫の施されたマホガニーの扉をモニカは緊張しながらノックし、おそるおそる声をかけた。

「で、殿下。モニカです。お茶をお持ちしたので入ってもよろしいでしょうか?」

返事はしばらくなかった。緊張のあまり唾を飲みこんだモニカが、もう一度ノックしようとしたとき。

「入れ」

低いけれどはっきりした声が返ってきた。
 
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