カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
扉脇に立っていた衛兵に手伝ってもらい、モニカはワゴンと共に部屋に入る。執務机の前に座っているリュディガーは椅子ごとこちらを向いていて、やはり不機嫌そうな表情をしていた。
「なぜあなたが従僕のような真似をする。それに怪我をしているんじゃないのか」
モニカがなにかを言う前に、眉間に皺を刻んだリュディガーがそう口にした。その威圧的な雰囲気に、叱られている気分になり身体がすくみそうになる。
けれど、彼の視線が包帯を巻いた足首に向けられていることに、モニカは気づいた。
(リュディガー殿下は怒っているわけじゃないんだわ。私を心配してくださっているんだ……)
そう考えると、全身の緊張が解けた。
「あの……怪我は大丈夫です。侍女にここまで来るのを手伝ってもらいましたから。それに、今日のお茶はどうしても私がリュディガー殿下に運びたかったのです」
モジモジとドレスの裾を握りながら、それでもはっきりとモニカが言うと、彼は息をひとつ吐いてから表情を少しやわらげて言った。
「運んでくれたことは感謝しよう。けれど怪我人が動き回るのは感心しない。あとは近侍にやらせるから、あなたは下がりなさい」
その台詞を聞いて、やはりリュディガーは冷たい人間ではないとモニカは確信する。きちんと話せばこちらの気持ちを受け入れたうえ、気遣いまでしてくれるのだ。
本当は給仕までして彼のために焼いた菓子の感想を聞きたかったけれど、せっかく心配してくれている気持ちをむげにもしたくない。
モニカは一礼をするとワゴンを置いて、部屋から出ていくことにした。