カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
こんなにソワソワとした時間を過ごしたのは初めてかもしれない。
居間でみんなとお茶を飲んでいるときも、エラとニクラスに本を読んであげているときも、モニカはリュディガーのことばかりが気になった。
果たして菓子は食べてもらえただろうか。おいしいと思ってもらえただろうか。そればかりが頭に浮かんで、なにをしていても上の空だ。
やがてエラたちが外へ遊びにいってしまうと、モニカはこっそりと厨房を訪れた。
そして洗い物をしている小間使いに、恐々と尋ねてみる。
「ねえ、リュディガー殿下のお部屋のワゴンはもう下げたの?」
「はい。さきほど」
「お、お菓子のお皿は空っぽだった?」
「はい。なにも残っていなかったようですが」
その答えを聞いて、モニカは嬉しくて跳び上がりそうになってしまった。
思わず笑みを浮かべてしまいそうになる顔を両手で押さえて、慌てて小間使いに背を向ける。
「えっと、あの、殿下はなにか仰ってなかった? おいしいとかまずいとか」
「さあ。ワゴンを下げてきたのは他のものですので、私はなにも」
「そう、ありがとう」
高揚する気持ちを隠すように、モニカは包帯を巻いた足を引きずりながらもその場から足早に立ち去った。
今まで家族や親戚に何度も手作りの菓子を振る舞い褒めてもらってきたが、こんなに嬉しいと思ったのは初めてだ。
ほんのわずかかもしれないし、勝手に思い込んでいるだけかもしれないけれど、リュディガーとの距離が縮まったような気がして、モニカの胸はずっと温かいままだった。