カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
翌日もモニカは彼のために菓子を焼いた。
今日はサワークリームを、ヨーグルトを混ぜたクレープで巻いたものだ。とてもさっぱりしているので、少しだけジャムを添えた。これぐらいなら甘いものが苦手でも食べられるだろう。
昨日と同じように自分でワゴンを押して部屋まで運んだが、リュディガーはモニカの足を心配そうに少し見やるだけで咎めなかった。
そして数時間後に厨房を覗きにいくと空になった皿が下げられて来ており、モニカはまたしても胸が熱くなるほどの歓喜を覚えたのだった。
けれどその翌日は残念ながら菓子は必要なかった。リュディガーが急な公務で朝から出かけてしまったからだ。戻るのは夜中らしい。
残念に思ったモニカだけれど、代わりにいいことを思いついた。
庭師に頼んで白いノアゼット・ローズを摘んできてもらうと、それを縁に金彩の飾られた青い磁器の花瓶に活け、リュディガーの部屋に飾った。
殺風景だった彼の執務室は清楚な華やぎを見せたけれど、留守中に出過ぎた真似をしてしまっただろうかとモニカは少し不安にも思う。
喜んでもらえたらいいなという期待と叱られるだろうかという不安を抱きながらリュディガーの帰りを待ったモニカだったが、あいにく彼が帰城したのは深夜で、この日は顔を合わせることはできなかった。
けれど翌日。
朝食が済むとモニカはすぐにリュディガーの部屋へ呼ばれた。
いつものように彼がいる執務室へと向かう足取りは緊張している。勝手に花を飾ったことを叱られる可能性もぬぐい切れないからだ。
マホガニーの扉の前で深呼吸をしてからモニカはノックをした。名乗るとすぐに「入れ」と中から声がして、衛兵が観音開きの扉を開けてくれた。