カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
中に入ると、執務机の前から立ち上がったリュディガーにソファーに座るように促された。
クリーム色の壁紙と鏡板で覆われた部屋には、ローズウッドの執務机や椅子、書棚などの他に応接セットもある。
テーブルの上には昨日飾ったノアゼット・ローズがあり、それを見てモニカは密かに安堵の息を吐いた。
テーブルを挟んでリュディガーは向かいの席に座ると、突然手に持っていた小さな箱を差し出してきた。
「え?」
何事かわからずモニカは瞬きをしながら箱を見やる。小箱には赤いリボンが掛けられ、職人とおぼしきものの名も入っていた。
ずっと不思議そうな顔をしたままモニカが手を伸ばさずにいると、リュディガーはテーブルに箱を置いてからソファーに深く座り直した。
「土産だ。昨日公務で行った街は鉱石のカットに定評があって、職人が腕を競い合っている。そこで一番評判がいい職人のものを選んできた」
「え……、お土産……ですか? わ、私……に?」
「他に誰がいるんだ」
モニカは信じられない思いでいっぱいだった。まさかリュディガーがお土産を買って来てくれるなどと、誰が想像できようか。それも、さも当然のように言われてしまっては驚くなというほうが無理だ。
小さな箱と彼の顔を交互に見やり、モニカはおずおずともう一度尋ねる。
「い、いいのですか? 私が頂いてしまって……」
するとリュディガーは、まっすぐ見つめてくる彼女のアンバーの瞳から視線を逸らすように、わずかに目を伏せて言った。
「……あの茶菓子を作ったのはあなただろう。甘くなくてうまかった。その礼のつもりだ。それから、その薔薇を活けてくれたことも、感謝している」
いつもより少し歯切れの悪いリュディガーの言葉を聞いて、モニカの頬が一気に赤く染まった。