カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない

なにも伝えられなかったけれど、彼は気づいてくれていたのだ。モニカがリュディガーの舌に合う菓子を焼いたことも、部屋に花を飾っておいたことも。

しかも褒められたうえにお礼と称して贈り物までされるだなんて。まるで夢でも見ているようで、モニカの胸はなんだかドキドキしてしまう。

「お、お褒め頂き恐縮です。お口に合ってよかった……」

「菓子はどれも甘ったるくて避けていたが、あなたの作るものならさっぱりしていて食べられる。ビスケットもクレープも初めて口にしたが、悪くなかった」

よほど気に入ってくれたのだろう、リュディガーの口調が饒舌気味になってきた。

「あれは私の国の農村で食べられているものなのです。チェルシオ王国は酪農が盛んですから、チーズやヨーグルトを使った菓子が多いのです」

モニカも声を弾ませて返せば、彼は興味深そうに頷いて聞いてくれた。

リュディガーが菓子を喜んでくれたことも、初めて会話らしい会話ができたことも、胸がワクワクするほど嬉しい。

そして、わざわざモニカのために買ってくれたという目の前の土産の箱も、気持ちを高揚させた。

「開けてみるといい。あなたに似合うのを選んだつもりだ」

改めて差し出された箱を手にし、モニカは頬を赤くしながらリボンをとく。

まだ十三歳の彼女は、男性から個人的に贈り物をもらうなど初めてである。なんだか一人前のレディとして扱われたようで嬉しかった。

「わぁ……綺麗……」

なめらかなビロード生地を敷いた箱から出てきたのは、見事な細工が施されたブローチだった。

花と蔦(つた)を模したブローチはダイヤとエメラルドでできており、上品な輝きを放っている。派手ではないが洗練されており、モニカは王都でもこんな素敵な装飾品をつけている人を見たことがないと思った。

「すごく綺麗です……。でも、私なんかには勿体ないかも……」

とても嬉しい反面、気後れもしてしまう。これが相当値の張るものであるのは見ただけでわかる。まだ社交界デビューもしていない自分がこんな高価な装飾品をもらってしまってもよいのだろうか。
 
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