カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない


「泣いている女は抱けない。今夜は中止する」

目の前の男が眉間に皺を寄せそう告げたのを、モニカは死刑宣告を受けたような気持ちで聞いた。

「ご……ごめんなさい。泣くのは我慢します。だから……」

琥珀色の瞳からポロポロと流れる涙を必死に手でぬぐう。けれど気持ちが焦っているせいか涙は止まるどころか、ますます溢れ頬を伝って枕を濡らすばかりだ。

モニカが必死に泣きやもうとしているうちに男――彼女の夫であるリュディガーは、覆いかぶさっていた身体を離しナイトガウンを着るとベッドからおりてしまった。

「待って、待ってください、リュディガー陛下!」

必死に引きとめようとするモニカの声に、リュディガーはわずかに振り向き彼女を見やった。

暗い部屋では純黒に見える彼の瞳にベッドサイドのランプが映り込み、本来の色である深い翠が甦る。その翠眼に見つめられ、モニカは胸の高鳴りと共に緊張を覚えた。

リュディガーのグリーン・アイは美しい。まるで翡翠石のような輝きを持つ瞳に見つめられると、うっとりと酔いしれてしまいそうになる。

けれど美しいのは瞳だけではない。リュディガーは人目を惹かずにはいられないほど端正な顔立ちをしていた。

男らしく精悍な輪郭に、高い鼻。切れ長の瞳には長い睫が縁取っていて、大人らしい落ち着いた雰囲気を醸している。髪は茶色がかった黒で、前髪をあげ横に流すスタイルは彼にとても似合っていた。

リュディガーの妻という立場になっても、モニカはその美しさになかなか慣れない。見つめられるたびに胸がドキドキしてしまう。

けれど今は状況が状況だ。しかも彼の表情からは、決してよいとはいえない機嫌が窺えた。ひそめた眉と引き結んだ口元が、モニカに対する非難を含んでいるように見える。

「あ……」

その様相に萎縮し、モニカは口をつぐんでしまった。それを見たリュディガーは踵を返すと寝室のドアへと向かっていってしまう。

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