カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
開かれた扉から出ていく夫の背を見つめ、モニカは絶望的な思いで両手で顔を覆った。
(呆れられてしまった……。リュディガー陛下に嫌われてしまったわ。みんなが、国民が期待しているのに、私は皇后の義務を果たせなかった……)
目の前が真っ暗になり、閉じた瞼の裏が熱くなってくる。
モニカはひたすらに自分が情けなくなった。新婚初夜など世界中の誰もが経験し、問題なくこなしていることだ。
それなのに自分は緊張と痛みに耐えきれず、閨(ねや)でさめざめと泣いてしまったのだ。夫の気持ちが萎えるほどに。
胸がつぶれそうなほど彼女が自分をふがいなく思うのには理由があった。
モニカは普通の新妻ではない。この大陸で一番の大国、ゲオゼル大帝国の若き君主、リュディガー皇帝に嫁いだ身なのだ。
皇后は皇帝と契りを結び、子を成す務めがある。それは世襲制で帝位が継がれるゲオゼル帝国にとって、皇后に課せられる一番重要な義務でもあり、四千万人を超える国民の大いなる希望でもあるのだ。
その第一歩でもある初夜を、彼女は失敗してしまった。夫を男として悦ばせ子種受けいれるどころか、情けなくべそをかいて、呆れた夫に行為を中断されてしまったのだから。
皆の期待に応えられなかったこと、そして夫であるリュディガーにきっと呆れられたであろうことが、モニカは悲しくてたまらない。
(明日は必ず成功させなくちゃ……。もう絶対に泣かないように頑張らなくちゃ……)
「……だからリュディガー陛下……、私を嫌わないで……」
ベッドの上で涙をこらえる若き皇后の呟きは、静まり返った寝室の闇に消えた。