カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない


ゲオゼル帝国皇帝夫妻が初めて出会ったのは五年前。
リュディガー・ヨハン・マリウス・アルムガルドが二十歳、モニカ・ヘレーネ・クラッセンが十三歳の夏だった。

半年後に戴冠式を控えた当時皇太子のリュディガーにとって、その夏の休暇は心からくつろげる最後の長期休暇だったといえよう。

この頃のゲオゼル帝国はところどころで暴動が起き、決して安泰とは言いがたい状態にあった。リュディガーの父であり当時の皇帝であったドミニクは外交と軍事に弱く幾度となく領土争いの戦争に負け、大帝国の衰退を恐れる国民に強く退位を求められていた。

世襲制とはいえ皇太子リュディガーの帝位継承が二十歳という異例の若さでおこなわれるのには、そんな明るくない理由があった。

帝位を継承したあとは問題が山積みである。暴動の制圧、ドミニク帝政で失った皇室威信の回復、領土の奪還、軍事の立て直し……。

若き次期皇帝の肩にのしかかる問題の数々を思えば、せっかくの休暇と言えどリュディガーはとても明るい気分になどなれない。

アルムガルド家は夏になると帝都を離れ、自然に囲まれた避暑地シュゲルの城で休暇を過ごすのが恒例となっていた。

丘の下に湖の望めるシュゲル城は、ロマネスク建築の名残を残す石壁の外観だ。部屋数は二百足らずとこぢんまりしたものだが、近年改装された内装は機械織りのカラフルなカーペットや大理石の壁で覆われ、各部屋にバットウィング形をしたガス灯が吊り下げられた豪華なものとなっている。

涼しく爽やかな気候、雄大な景色、過ごしやすく不自由のない部屋。けれどそんな快適な休暇に来ていてもリュディガーの心は晴れず、彼は自室にこもって持ち込んだ書類の決裁ばかりしていた。
 

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