カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない

「兄さん。少しは休憩して居間に下りてきなよ。モニカがチェリータルトを焼いたんだ、お茶にしよう」

せっかくの休暇だというのに政務ばかりしている兄を心配して、五つ下の弟エルヴィンが部屋まで声をかけに来た。

けれどその親切にまでリュディガーは渋い顔をする。

「いらん。甘いものは嫌いだ」

とりつくしまもない兄の態度に、エルヴィンは眉尻を下げて肩をすくめる。

ただでさえ帝位継承後の重責に悩ましいリュディガーが、シュゲル城に来てからますます不機嫌になっているのには、もうひとつ理由があった。

今回の休暇には来客がいる。同じく避暑地シュゲルの別荘へ旅行に来ていたクラッセン一家だ。

クラッセン一家は、ゲオゼル帝国の同盟国チェルシオ王国の公爵家だ。そしてリュディガーの母ドーリスの遠縁にあたる。

陣中見舞いに来たクラッセン一家は、母同士、子同士が意気投合ししばらく城に滞在することとなった。部屋はたくさんあるし客人をもてなすことが好きなドーリスも子供たちも大歓迎だったが、ピリピリしているリュディガーだけは不満を募らせていた。

「あの小娘たちはいつまでいるつもりだ。早く別荘へ帰れと言え」

エルヴィンに背を向け再び執務机に向かいながら、リュディガーは苛立った口調で告げる。

「ひどいこと言うなあ、兄さんは。僕はもっとずっとモニカにここにいてほしいよ。あんな可愛い子と毎日お茶が飲めるなんて、最高の休暇だ。ああ、この休暇が終わってモニカと離ればなれになる日のことを思うと、今から胸が痛いよ」

うっとりと夢見るような口調で反論した弟に、リュディガーはますます眉間に深い皺を刻んだ。

アルムガルド家は男ばかりの三人兄弟だが、クラッセン家は十三歳の姉と八歳の妹のふたり姉妹だ。エルヴィンはふたりの可愛いプリンセス、特に姉のモニカにすっかり心酔してしまっている。愛おしい妹でもできた気分なのだろう。

そんな弟の態度が、リュディガーをさらに不愉快にさせる。
 
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